LDC卒業直前のバングラデシュ~輸出競争力維持に向けた、FTA/EPA交渉に注目
2025年07月11日
2026年に、バングラデシュ、ラオス、ネパールがLDC(後発開発途上国)を卒業する予定である。さらに、2029年にはカンボジアも卒業を予定している。4カ国とも、LDCからの卒業要件(※1)である「一人あたりGNI」、「人的資源開発指数」、「経済的及び環境的ショックに対する脆弱度」といった3つの基準を満たし、現在は卒業のための準備期間に入っている。この準備期間で最も重要となるのは、輸出対策である。LDCは特恵関税制度の対象であるため、LDCから輸出される財にかかる関税は低率か無税となることが多い。つまり、LDCを卒業するということは、これまでほぼ無税で輸出できていた財に、関税がかかることを意味する。これらの国々が、輸出競争力を維持するためには、貿易相手国との間にFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を締結し、賦課される関税率を引き下げる努力が必要である。
これらの中でも、注目したいのがバングラデシュである。進出している日系企業は338社(2023年5月時点)と、ラオス(110社、2025年6月時点)、ネパール(35社、2023年10月時点)、カンボジア(1,290社、2022年3月時点)(※2)の中で2番目に多い。国際協力銀行が行った調査(※3)では、中長期的な有望事業展開先国・地域(今後3年程度)の中でバングラデシュは14位と、20位のカンボジアよりも上位に来ている(ラオス、ネパールは37位)。「現地マーケットの今後の成長性」と「安価な労働力」が魅力だという。
2024年の一人あたりGNI(※4)は、インドが2,650ドルであったのに対し、バングラデシュは2,820ドルとそれを上回った。人口は1.7億人(2024年)(※5)であることから、消費市場としての潜在能力が高い。さらに、25.3歳という人口中央値(2023年)と年平均1.0%の人口増加率(2019-23年平均)が象徴するように、若くて豊富な人材が生産拠点としての魅力を高めている(※6)。それにもかかわらず、バングラデシュが締結している貿易協定は、比較的緩い枠組みである地域協力協定を除くと、ブータンとのPTA(特恵貿易協定)に限られる。ASEAN加盟国として、アジア諸国とのFTAやEPAを締結しているカンボジアやラオスと比べると、その差は歴然としている。自由貿易体制の中で輸出競争力を維持するには、政策面で未熟といえるかもしれない。
消費地、そして生産地として注目されるバングラデシュの今後の成長を促す上でも、FTA・EPAの締結は不可欠となるだろう。日本との間では、2024年3月にEPAの交渉開始が決定された。2024年5月には首都ダッカで第1回の交渉会合があり、ビジネス界からは2025年内の合意が期待されている。日本・バングラデシュEPA交渉の動向を見守りたい。
(※1)国際連合(国連)が定めた基準。これを一つでも満たさないと、LDC卒業とならない。
(※2)バングラデシュ、ラオス、カンボジアはJETRO出所、ネパールは外務省出所
(※3)国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2024年度 海外直接投資アンケート結果(第36回)」(2024年12月12日)
(※4)世界銀行が、所得別に国を区分する際に用いるAtlas methodに基づく。
(※5)バングラデシュ統計局
(※6)データの出所は国連
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経済調査部
シニアエコノミスト 増川 智咲