1996年、日本の国民1人当たりGDPはOECD加盟国中5位だった
2024年08月16日
近頃の日本は、大挙して訪れる外国人旅行者に「何でこんなにいいもの、美味しいもの、素晴らしい体験がこんなに安いのか」と驚愕されている。私事ながら筆者が会社帰りに一人で寄り道するお寿司屋さんの「おまかせ握り10貫 2,900円」をたまたま居合わせた外国人にお勧めすると、毎回涙を流さんばかりに感激される。
しかし、なぜ日本はこんなに安い国になってしまったのだろうか。
日本生産性本部の調査研究「労働生産性の国際比較2023」によると、「経済的な豊かさ」の指標とされる国民1人当たりGDPにおいて、日本は1996年にOECD加盟国全体の中で5位、主要7か国の中では1990年代前半から半ばにかけて米国に次ぐ2位だったが、2022年には加盟38か国中27位に沈んでいるという。
同調査研究は、国民1人当たりのGDPと労働生産性の関係について、「働く人の能力や経営能力の改善、さまざまなイノベーションなどによって労働生産性が向上すれば、経済は成長し、国民 1人当たりGDPも上昇する」「労働生産性が向上するということは、働く人数や時間当たりでみた付加価値が増えることを意味しており、それが企業利益と賃金、減価償却費などへ分配される原資になる」と論じる。
ここで、日本が最も豊かであったとされる1996年について、以前のコラム(※1)でも引用した資料「労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計 2021』」を再び引用したい。同統計によると、奇しくも1996年は60歳で退職した大学・大学院卒男性の生涯賃金が3億5,790万円(退職金含まず)と史上最も高かった年なのである。その後、生涯賃金は低落を続け、2019年の退職者の生涯賃金は3億1,480万円と約4,300万円(12%強)も減少する(退職金も大幅に減少していると推察される)。この2019年退職世代では世帯主の男性が家計を支えているケースが主流であり、上昇しない賃金と高値掴みした住宅のローンや教育費等の圧迫から、親の世代と比較して相当な「貧しさ」で人生を送ってきた世代と言っても大外れではないだろう。「付加価値が高いから高くても買う」というマインドセッティングとは程遠く日々生活してきたのである。
この生涯賃金の推移から改めて、「安い国、ニッポン」「付加価値が増えない日本」を捉えてみる。それは、1996年を起点とする約30年間に、日本の企業経済全体として「実質的に付加価値の高いモノやサービスが生産されてきたにもかかわらず、勤労者に対して正当な賃金が払われてこなかった」という現実、またそれに起因する低価格志向がもたらした「負の底なしスパイラル」の皮肉な結果、としか見えないのである。
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 小島 一暢
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