さあ、新しい資本主義へ! 生涯賃金を考えてみた
2022年08月29日
はじめから私事で恐縮だが、あと約一年で満六十歳の定年を迎える予定である。そんな残暑の折、ふと「生涯賃金」に思いを馳せてみようと検索して、面白い資料に行き当たった。「労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計 2021』」である。60歳まで会社員として働いた人の生涯賃金を1990年から2019年まで時系列で見ることができた。
1990年に60歳になった人は、1930年生まれ、15歳で第2次世界大戦終戦を迎え、存命であれば92歳ということになるが、大卒または大学院卒で1,000人以上規模の企業に勤めていた場合の生涯賃金(男性、60歳まで、退職金含まず)は、3億3,880万円。そして、2019年に60歳になった1959年生まれの人はいくらかというと、3億1,480万円で30年の間に2,400万円も減少している。ちなみに一番高い年は1996年の3億5,790万円、2019年よりも4,310万円も多い。
ここで、2019年に60歳定年を迎えた会社員A氏の人生を想像してみる。1982年入社、初任給10万円台前半。1990年、30歳で結婚、やがて二人の子供に恵まれてシングル・インカム・トゥー・キッズ。1998年、40歳手前で課長になり年収も1,000万円に届いた。家族のためと環境のよい郊外に庭付き一軒家を8,000万円で買う。通勤時間1時間半、35年ローンの返済は毎年約200万円。ところが、やがて収入の伸びが鈍る一方、年金や税金が重くなってくる。2004年、45歳、子供は育ち盛り、妻は近所のスーパーでパートタイムの仕事を始める。2009年、50歳、次長職のまま子会社へ転籍、給料が下がり始める。ローン返済に暗澹とする。(親世代が受給者の)年金負担も重い。そもそも、親の世代がただ同然で手に入れた土地を6,000万円も出して買って、家を建てたことにやり切れない思いがよぎる。大学生、高校生の子供たちの学費も大変だ。実家の母は要介護になった・・・そして、あっという間に10年が過ぎ、定年。退職金でやっと一息つく。しかし、まだまだローンがあるし、働かないと・・・
非常に大雑把に言えば、2019年前後定年世代は、親世代、子世代のために必死で働いたにもかかわらず、買った家は親の世代からの高値掴みで資産価値は上がらず、給料は米国の投資銀行や欲張りな投資家に吹き込まれて「株主価値経営」に舵を切った先輩世代のおかげで、40歳から横ばい、さらに減少。結局、本来最もお金を使って経済を牽引するべきこの世代が親世代、子世代、企業の三方から押し潰されたことが、30年以上にわたる日本経済の地盤沈下を生んだと言えるだろう。
そして、いま「新しい資本主義」の時代が始まろうとしている。そろそろこの原稿も終了の時間だ。次のタスク、「リスキリング」のためのe-ラーニング「エクセル能力チェックテスト」を始めるとしようか。
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- 執筆者紹介
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 小島 一暢
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