GX推進機構による支援は民間のグリーントランスフォーメーション(GX)投資を後押しするか

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2024年07月01日

本日(2024年7月1日)より、GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)が業務を開始する。同機構は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」(2023年5月成立)に基づき、2024年4月に経済産業大臣から設立認可が下りた認可法人である。今後10年間で150兆円超の官民協調でのグリーントランスフォーメーション(GX)投資を目指すGX政策(※1)の下、金融支援、化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収、排出量取引制度の運営(排出枠の割当て、入札)などを行う。

この中で設立当初から始まる業務が、金融支援である(カーボンプライシング関連業務は2026年より追加される予定)。具体的には、民間金融機関に対する債務保証、出資及び社債の引受などが想定されている。2024年5月にGX推進機構が金融支援業務において支援案件を決める際の基準である「脱炭素成長型経済構造移行推進機構金融支援業務に関する支援基準」の案が公表され、金融支援に当たって機構が従うべき基準と金融支援全般において機構が努めるべき事項の2つが示された。前者としては、GX推進戦略等の政府方針に整合していること、GXに資する新技術の社会実装等であること、民間だけでは取り切れないリスクを補完する必要性があることなど5つの基準が示されている。一方、後者としては、金融支援を推進する体制の確保や情報開示などの6項目が示されている。

GXに資する新技術には、経済産業省が2023年12月にGX実行会議の下で取りまとめた「分野別投資戦略」の水素還元製鉄(※2)等の水素関連技術や光電融合などの次世代半導体など、カーボンニュートラル実現に向けた革新的技術が該当すると考えられる。研究開発や社会実装には通常、多くのコストと時間を要する上、将来の実現性や収益性を見極めることは難しい。政府はGXの円滑な推進に向けて必要なリスクを取る姿勢を明確に示しており、GX推進機構による債務保証等を通じたリスク補完は、民間金融機関のリスク許容度を高める上で役立つことが期待される。

さて、このような金融支援業務の財源として、GX経済移行債の発行で調達した資金が想定されている(2024年度発行分の充当予定先として、GX推進機構への出資金1,200億円が予算計上されている)が、その償還財源はカーボンプライシングの本格導入による政府収入だ。カーボンプライシングの導入は将来的に企業の価格転嫁を通じて広く国民負担になりうることを考えると、金融支援の費用は国民が間接的に負担するともいえるだろう。

支援先についてはGX推進を最優先とした総合判断となろうが、上記の観点からも、外部専門家の意見も踏まえつつ透明性のある選定プロセスや意思決定の根拠、支援後の評価などに関する情報開示を、努力事項にとどめることなく確実に実施することで、公平性や納得感の高い支援となるのではないだろうか。

今後、金融機関を含む民間企業が、このような金融支援をツールの一つとして有効活用することが期待される。併せて、政府がGX政策を通じて脱炭素の価値が評価される市場づくりや企業の事業環境の予見可能性を高めていくことができれば、民間企業のGX投資が後押しされる可能性があるだろう。

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依田 宏樹
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 依田 宏樹