コーポレートガバナンス・コードの第3次改訂に向けた留意事項

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2025年08月25日

2025年6月30日、金融庁は、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を公表し、コーポレートガバナンス(CG)・コードを三たび改訂する方針を示した。2015年に制定されたCGコードは、18年、21年と当初は3年ごとに改訂が行われた。しかし、改訂を通じて、本来、プリンシプルだったはずのCGコードの内容は詳細化の度合いを強め、形式化・マイクロマネージ化の懸念も生じることとなった。こうした中で、金融庁・東京証券取引所は、よりCG改革の実質化を重視する方針に転換し、それ以来CGコードの改訂は見送られてきた。

今般、改めて改訂作業が進められることとなったが、これまでの経験などに照らして、改訂の際に特に留意しておくべきだと考える諸点について確認しておきたい。

まず、改訂のねらいについて、アクション・プログラムでは、CG改革の実質化を促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に真に寄与する対話を促進するための環境整備と説明されている。しかし、過去の改訂の際も、CGコードへの企業の対応が形式的で実質を伴わないと批判があり、それに対応すべくCGコードの改訂を行ったとの経緯がある。CG改革の実質化をねらってCGコードに新たな記述を加えても、結局、それがまた新たな形式的対応を生んだ、という過去の経験を繰り返すことのないよう、留意していく必要がある。

次に、改訂の内容について、アクション・プログラムでは、現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化、有価証券報告書の総会前開示の取組みの促進の2つが具体的に掲げられている。

このうち、現預金の有効活用については、現在のCGコードでもその原則5-2で、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たって、自社の資本コストを的確に把握した上で収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、事業ポートフォリオの見直しや経営資源の配分等に関する説明を株主に対して明確に行うべきことが規定されている。経営資源のうち、特に現預金に着眼して更なる記述を加えることで、プリンシプルの過度の詳細化を招くことのないよう、配意していく必要がある。

また、有価証券報告書の総会前開示については、そのための環境整備として、(金融商品取引法に基づく)有価証券報告書と(会社法に基づく)事業報告の一体開示を含めた制度的な整理の必要性などが、かねて唱えられてきた。こうした点について議論を尽くす前にCGコードに規定するというのは唐突感が否めない。CGコードはコンプライ(遵守)を義務付けるものではないのだから何を書いてもよい、といったことではないはずだ。

さらに、別途2025年6月13日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」に、「…企業の積極的な投資による地方における拠点整備が、中長期的な企業価値の向上につながることをコーポレートガバナンス・コードの見直し等により明らかにする」との記述があることにも注意が必要だ。企業が資本コストを意識して、その事業ポートフォリオの見直しなどを行う場合、地方拠点の取扱いの問題がしばしば重要な論点となってきた。地方創生が政府の重点施策であることは理解するが、安易にCGコードに新たな記述を設けることは、その中核をなすとも言える資本コストを意識した経営という視点をあいまいなものにしかねない。慎重な検討が求められよう。

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池田 唯一
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専務理事 池田 唯一