2024年3月期有価証券報告書の人的資本開示の注目点
2024年05月27日
2023年3月期の有価証券報告書からサステナビリティに関する情報開示が義務化された。特に人的資本に関しては「人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針」「社内環境整備に関する方針」について記すこと、またこれら方針に関する「指標及び目標」を記載することが求められた。
金融庁は毎年度、上場会社等が提出した有価証券報告書の記載内容について適正性を確保する観点から、有価証券報告書レビューを実施している。複数の企業の有価証券報告書に共通して識別された課題に関し、今後の有価証券報告書の作成にあたって留意すべき事項等をまとめている。令和5年度のレビューでは、重点テーマの1つに「サステナビリティに関する企業の取組の開示」が挙げられた。レビューの結果、この点に関して9つの課題が確認され、そのうち2つが人的資本に関するものであった(※1)。具体的には「人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭である」「人的資本(人材の多様性を含む)に関する指標、目標及び実績が連結会社ベースの記載になっていない」が課題であるという。
大和総研においても、各社が人的資本に関してどのような開示をしたのか、TOPIX500採用銘柄のうち3月期決算企業の2023年3月期有価証券報告書(380社)を確認した。ダイバーシティ&インクルージョン、教育・育成に関する取組みを中心に、健康や安全、従業員エンゲージメント、採用や人材の配置など、各企業の様々な考え方、取組みが記載されていた(380社の開示の傾向等、詳細については大和総研編著『資本市場に向けた人的資本開示』(※2)に掲載しているので、ぜひそちらもご参照いただきたい)。
一方、人的資本に関する記述において、中期経営計画や長期ビジョン等の中長期的な企業戦略との結びつきが必ずしも明確に示されていない事例、「指標及び目標」で示されている指標が戦略と結びつかない事例も見受けられた。後者に関しては“戦略として人材の育成や獲得について説明されているが、それに関する指標がなく、女性管理職比率など関係性が不明瞭な指標が示されている”といったケースなどが当てはまる。これらを踏まえ、筆者は今後公表される2024年3月期の有価証券報告書において①企業の戦略との関係性が丁寧に説明されているか、②有価証券報告書全体の記載内容が整合的か、という2点に注目していきたいと考えている。
(※1)金融庁「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」(2024年3月29日)
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主席研究員 太田 珠美
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