米証券会社にとって依然課題となる「最善の利益義務」

RSS

2024年02月19日

筆者は、毎年初に米国証券業の自主規制機関である金融取引業規制機構(Financial Industry Regulatory Authority, 以下FINRA)が公表する証券会社のコンプライアンスに関する年次報告書のうち、特に、Regulation Best Interest(Reg BI)(※1)の順守状況に注目している。Reg BIは、2020年6月に施行された米国証券監督当局である証券取引委員会(SEC)の規則であり、証券会社(ブローカー・ディーラー)が個人顧客に証券取引等を推奨する際に、顧客の最善の利益のために行動することを義務付けるものである。

今年は、1月9日に、従来の「検査・リスクモニタリングプログラムに関する報告書」から名称が変更された、「2024年FINRA年次規制監督報告書」が公表された(※2)。

報告書におけるReg BIの順守状況を見ると、今年も、一部のブローカー・ディーラーによるReg BIの違反事例が指摘されている。例えば、新たに「個人顧客の投資プロファイルに合致しない複雑な商品や流動性の低い商品を推奨した」(注意義務の不履行)といった指摘のほか、昨年と同様に「証券取引または証券に関わる投資戦略の推奨に関連する利益相反を特定せず、適切に開示、緩和、または排除していない」(利益相反回避義務の不履行)、「推奨により受け取る手数料など利益相反に関連する全ての重要な事実を『完全かつ公平に』顧客に開示していない」(開示義務の不履行)などの指摘である。

Reg BIの施行から3年半を経ても同様の指摘が継続しており、米国の一部証券会社にとってReg BIの順守は依然として課題になっているとともに、FINRAとしても引き続き優先して対処する事項となっているのである。

報告書では、証券会社がReg BIを順守するための「効果的な実践方法」が提示されている。注意義務では、証券会社が顧客に投資推奨するプロセスにおいて、合理的に利用可能な代替商品(低コストまたは低リスクの商品を含む)を十分に検討することが求められる。実践方法として、販売員が、推奨を行うに当たって、コストや合理的に利用可能な代替商品をどう評価すればよいかの明確なガイダンスを提供することなどが、挙げられている。

日本でも2023年11月に金融商品取引法が改正され、顧客や年金加入者の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべきである旨の義務(顧客等の最善の利益義務)が、金融事業者や企業年金等関係者に対して横断的に規定された。今後、日本の金融機関も最善の利益義務に対応した具体的な行為規制や社内コンプライアンス態勢の整備への対応が求められることが想定される。米国の証券会社にとって最善の利益義務の順守が依然として課題となっている現実と、自主規制機関がいかなる対応を求めようとしているのかを理解することは、日本の金融機関にとっても今後の対応の一助になるかもしれない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬