米国の女性活躍と「オールドボーイズクラブ」

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2023年12月01日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

私事ではあるが、本年10月2日から、米国のニューヨークに拠点を移している。本稿を執筆しているのは11月17日なので、早くも一月半が経過したことになる。

異動してからこれまで、生活をしている中で強く感じることの一つに、女性の活躍が目覚ましい、というものがある。

ここ数年、日本でも、「女性活躍」、「ジェンダー平等」、「ダイバーシティ」等の表現とともに、高くて厚い「オールドボーイズクラブ」(※1)の壁を少しずつ崩そうという動きが活発化している。

それでも、米国に来てみると、半径5メートル以内の感覚としては、「米国は日本よりもずっと先に進んでいるのかもしれない」という第一印象を持った。

というのも、テレビでニュースを見てもキャスターの多くは女性であり、銀行や公的手続きの場に赴いても女性職員のほうが多いような気がするのである。銀行にあっては、窓口の奥にあるガラス張りの個室で口座開設を担当してくれたのは女性行員であり、その上司もまた女性であった。また、街を歩いていても、朝夕問わず、男性が一人で子供を連れている姿をよく見かけることも、そうした印象に寄与している。

漠然とそう思っていたところ、実際には、米国でもいまだにオールドボーイズクラブが女性の活躍を妨げているのではないか、という疑念を持つのに十分なインパクトを有するニュースが飛び込んできた。

それは、THE WALL STREET JOURNAL紙(WSJ)による告発記事、‘Strip Clubs, Lewd Photos and a Boozy Hotel: The Toxic Atmosphere at Bank Regulator FDIC’(11月13日付)である。

WSJによると、連邦預金保険公社(FDIC)の職場環境は、長年にわたって典型的なオールドボーイズクラブであり、数多くの女性職員が離職せざるを得なかったという。

この告発記事が出てからというもの、FDICのMartin J. Gruenberg総裁(民主党)はその対応に追われている。というのも、Travis Hill副総裁と、DirectorのJonathan McKernan氏(いずれも共和党)は、二度にわたって共同声明を公表しており、第三者機関による徹底的な調査と究明を総裁に求めているためである(※2)。

FDICといえば、本年3月には他の連邦当局と共同で、経営破綻したシリコンバレー銀行の預金者の完全保護という緊急措置を取ったことが記憶に新しい(※3)。このように米国の金融システムを守るという崇高な役割を担うFDICが、自社の女性職員を守れていないとしたら、たいへん残念なことである。

いまだ真相が解明されているとはいえないが、WSJの告発記事は、半径5メートル以内の感覚をあてにしてはいけない、という基本に立ち返るきっかけとなった。

(※1)「男性中心の非公式な組織内コミュニティのことで、男性だけの飲み会やゴルフ、社内の派閥や勉強会などを通して自然に形成される。男性同士のつきあいの中で組織の方針や人事が決まっていき、女性が取り残される」(日本経済新聞「『オールドボーイズクラブ』対策は どんどん女子会、連帯が力に」(2023年5月1日付)より引用)。
(※2)以下FDICウェブサイト参照

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光