日銀総裁の就任当初の株価動向が示唆するもの

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2023年11月10日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

日本銀行(日銀)総裁に植田和男氏が就任してから約7カ月が経過した。その間、金融政策については緩和姿勢が維持されながらも、徐々に修正が行われている。マーケットの観点からは、大規模緩和の“副作用”が認められた債券市場を中心に、市場機能の回復が進みつつある。そして、価格面では大きなショックを経ることなく現在に至っていると評価できよう。とはいえ、2024年に向けては金融緩和の出口戦略も取りざたされる中で、日銀は引き続き難しい政策運営を迫られるであろうことは想像に難くない。

そのような中、株式市場の側面からは、植田総裁就任後の株価が概ね堅調に推移していることが指摘できる。日経平均株価でみると、就任日から3カ月間の上昇率は17.7%に達し、日本経済が高度経済成長期を終えた後の1974年に就任した森永総裁以降の例で最大の上昇率を記録した。その後の株価は伸び悩んでいるものの、就任から6カ月後の時点でも2ケタのプラスを保った。

日銀総裁の任期は原則5年であるが、任期を通じた株価パフォーマンスは、実は就任当初の早い時期に示唆されている可能性がある。前記の森永総裁以降の例をみると、就任3カ月後、同6カ月後に株価が上昇していた場合、任期の終了時には株価は一段と上昇していた。一方で、就任後の同時期に株価が下落していた場合、任期の終了時に至っても挽回することができなかった(図表参照)。これは、森永総裁以降の約50年間で全てのケースに当てはまるジンクスとなっている。

近年の日銀総裁と任期中の株価騰落率

もちろん、株価は日銀の政策目標に直接関係はない。また、総裁就任当初の金融政策が緩和と引き締めのどちらに向かっていたかということも影響しようが、例えば1979年の前川総裁就任直後は連続で利上げを行っても株価は堅調を維持するなど、単純には分けられない。結果的な株価パフォーマンスの差については、マーケット参加者に信頼されるような金融政策運営が、就任当初から行われたか否かが問われているようにもみえる。この点において、植田総裁はまずは順調に滑り出したといえよう。

ただし、今回のケースについては、就任3カ月後に比べて同6カ月後の株価がやや下がっていることに注意が必要だ。日銀総裁就任当初の3カ月ないし6カ月間の株価パフォーマンスが、就任期間を通じた株価パフォーマンスを示唆するというこれまでのジンクスが、植田総裁でも再現されるかに注目している。

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佐藤 光
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