金融機関と当局との対話における「心理的安全性」の確保
2023年11月08日
「…金融機関等との対話等においては、金融機関の役職員の心理的安全性の確保に努める。」これは、金融庁が公表する2023事務年度(7月~6月)の「金融行政方針」における記述である。ここで言う「心理的安全性」は、一人ひとりが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる場の状況や雰囲気のことを指す(※1)。チームの生産性向上に資する重要な要素として近年着目されている概念であるが、職場等でのチーム構成員とリーダーとの対話の場面への適用に留まらず、金融機関と当局との対話の場面でも活用し得るというのが従来からの金融庁の説明である(※2)。当局と金融機関との間の対話において「心理的安全性」の確保とフラットな対話を心掛けることで、当局としては、これまで必ずしも捉えることのできなかった金融機関の状況や取組み等について気づきを得、個々の金融機関をより深く理解できる。また、金融機関としても、こうした対話に基づき様々な気づきを得、自発的な創意工夫をより発揮する契機となり得るのではないか、というのが当局の思いのようだ(※3)。
「心理的安全性」といった固い言葉を目にすると、それだけで心理的に不安定になってしまいそうで、「金融行政方針」に盛り込むのであれば、もう少し違う言い回しがあるのではと思わないでもないが、金融機関から当局に対してもっと率直に発言してもらいたいとの意向の表れであると理解したい。もっとも、当局と金融機関との間には監督・被監督の関係があり、「金融行政方針」にこう書かれたからといって、金融機関側が直ちに「心理的安全性」を感じ、当局に対して100%率直に発言できるようになるのかは疑わしい。それが実現するためには、相当程度の時間を掛けて、両者間で信頼を積み上げていくことが必要だろう。
両者間での信頼関係の構築に向けた継続的な努力が期待されるが、さらに言えば、そうした努力を重ねてもなお100%率直に発言することなど金融機関側にはできないのだということを十分理解していくことも、当局にとっては重要なことだろう。相手側は言いたいことのすべてを発言できているわけではないということを見落としたまま施策の立案・実行を進めれば、往々にして施策は思いもよらない波及経路を辿ることになる。声なき声を察するデリカシー、相手の真意をつかむ力量が当局には求められているのかもしれない。
(※1)2019年8月 金融庁「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」87-88ページ、コラム③「心理的安全性」について
(※2)同上
(※3)同上
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専務理事 池田 唯一
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