2024年は、新興国でも選挙の年
2023年10月20日
世界が米国の大統領選挙の行方に注目する2024年、主要な新興国でも大統領選挙や総選挙が控えていることをご存じだろうか。インド、ロシア、南アフリカ(南ア)といったBRICS諸国のほか、インドネシアやメキシコといったG20加盟国がその例で、まさに「グローバルサウス」の中心として注目されている国々である。また、バングラデシュやパキスタンでは総選挙、スリランカでは大統領選挙が実施される予定である。これらは、ウクライナ危機下で外貨不足に陥り、国際通貨基金(IMF)の融資を申請した国々である。このように、2024年は、新興国の中でも、ウクライナ危機をきっかけに特に注目されている国々が政治の年を迎える。
本稿執筆時点での現地の支持率調査や報道をもとに、各国選挙の行方を見通すと以下のようになる。
まず、選挙を経た後も、現政権の政策が引き継がれる可能性が高い国々に、インド、ロシア、インドネシア、メキシコが挙げられる。インドでは、モディ現首相への評価が高いことや、有力な野党が不在であることから、与党が優勢と報じられている。ロシアでも、プーチン現大統領への支持率は高く、一強となる可能性が高い。インドネシアでも、2期目のジョコ現大統領への支持率が高いが、憲法で大統領の3選目は禁じられている。そのため、同氏の政策を継承することを公約に掲げた候補者の支持率が高い。同様に、大統領の任期が1期までとされているメキシコでも、ロペスオブラドール現大統領の後継者であるシェインバウム前メキシコ市長が最有力候補とされている。このように、これら4カ国で「現状維持」が優勢な背景には、コロナ禍からの回復やウクライナ危機への対応において、現政権の政策が一定の評価を受けている点が挙げられる。
他方で、選挙の行方に不確実性が高まっている国々に南ア、パキスタン、スリランカ、バングラデシュが挙げられる。南アでは、インフラの老朽化に起因した深刻な電力不足を背景に、ラマポーザ現大統領に対する支持率が大きく低下している。パキスタンとスリランカでは、経済状況の悪化から政治に対する不満の声が大きい。2023年には両国で過激な抗議デモが生じ、スリランカでは、前大統領が辞任に追い込まれた経緯がある。これら2カ国では、2024年の選挙をきっかけに国民の不満が再び爆発し、社会不安が再燃する可能性も否定できない。バングラデシュでは、与党が勝利しハシナ政権が続投するという見方が大勢であるが、公正な選挙を巡る与野党の対立が過激化するリスクには注意が必要だ。
このように、インドやロシア等といった、経済や人口の規模、そして新興国全体に影響を及ぼす発言力が大きい国々においては、2024年選挙が政治経済・外交政策の大規模な転換につながる可能性は低いだろう。他方で、パキスタン、スリランカ、バングラデシュなど、経済構造にもともと脆弱性を抱えている国で、選挙がさらなる混乱をもたらすリスクには注意が必要である。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 増川 智咲
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