今後の政府歳出を圧迫するのは社会保障費よりも国債費?

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2023年09月22日

日本では財政赤字が問題視されて久しい。その背景には、高齢化によって社会保障費が増加していることがある。2023年度の政府予算(一般会計ベース)でも、社会保障関係費は36.9兆円と全体の32.3%を占める最大の歳出項目となっており、過去10年で7.7兆円も増加した。他の歳出と比べて増加幅も大きい。

だが、今後は社会保障関係費よりも国債費のほうが増えそうだ。内閣府が7月25日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(ベースラインケース)(以下、内閣府試算)では、今後10年程度の経済財政の状況を推計している。下図は、内閣府試算で推計されている「社会保障関係費」「地方交付税等」「国債費」「その他」の歳出について、2023~32年度にかけての変化幅を示したものであるが、それぞれについて簡単に見ていこう。

歳出の増加幅の推計値(国の一般会計ベース、内閣府試算)

「社会保障関係費」は高齢化の進行で医療・介護・年金等に関する経費が膨らむとみられ、2023~32年度までの間に4.5兆円増加する。

「地方交付税等」は制度上税収に連動する。内閣府試算では経済成長によって税収が増えるため、地方交付税等も2.4兆円増加する。

「その他」は4.2兆円減少する。ただし、これは2023年度予算にある5兆円の予備費(※1)が、2024年度以降は計上されていないためだ。予備費を除いたベースでは、物価上昇と政策要因(防衛力強化や国土強靭化など)により0.8兆円増加する。

そして「国債費」であるが、増加幅が4.9兆円と歳出項目のうちで最も大きい。内訳を見ると利払費が1.9兆円増加し、債務償還費が3.0兆円増加する。

内閣府試算の通りであれば、国債費の増加幅は社会保障関係費のそれを上回り、今後の歳出を圧迫する大きな要因となるだろう。少子化対策や気候変動対策など重要な政策を実施する足枷ともなりかねない。

さらに注意すべきことに、内閣府試算では利払費が過少推計されている可能性がある。内閣府試算は長期金利を2023~25年度まで0.4%、それ以降は緩やかに上昇して2032年度に0.9%になるとみているが、現実の長期金利は既に0.7%程度に達している(2023年9月13日時点)。日本経済がデフレを脱却しつつある中で、先行きも長期金利が内閣府試算で示された以上に上昇することは十分考えられる。

内閣府は、長期金利がより上昇する試算結果(成長実現ケース)も同時に公表している。そこでは長期金利が2032年度に3.2%にまで上昇し、国債費は13.2兆円も増加する(うち利払費は9.9兆円の増加)。

これまで、膨大な政府債務を抱えることのデメリットについては、低金利が続いてきたためにあまり意識されなかったかもしれない。だが今後は、国債費の急増というかたちで顕在化してくるのではないだろうか。

(※1)新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費(4兆円)と、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費(1兆円)の合計。

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執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 末吉 孝行