マイナンバーカードを更新しますか

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2023年08月30日

先日、子供たちのマイナンバーカードを更新した。カードの有効期限は通常10年だが、18歳未満は5年であり、パスポートと同様に写真の変更を伴う更新手続きが必要だ。手続き自体はスマートフォンなどを使って短時間で完結できたが、新しいカードを交付するという連絡が来たのはその約2カ月後だった。その後も役所に行く時間が取れず、受け取りまでに結局5カ月くらいかかってしまった。もっとも、今のところカードを使う機会がないため、さしあたって困ることはなかった。

マイナンバーカードの用途は広がりつつあるが、身近なのは健康保険証との一体的な利用(マイナ保険証)だろう。厚生労働省によると、2023年8月13日時点で、82.2%の医療機関や薬局がマイナ保険証を読み取るカードリーダーを接続したオンライン資格確認等システムを導入・運用している。マイナ保険証を使った場合、閲覧に同意することで、患者は過去の診療/薬剤情報・特定健診等情報などを踏まえた診療や投薬を受けることができる。この点を、政府は、データに基づく「より良い医療」の提供につながると説明している。

しかしながら、デジタル庁によると、実際に受診した患者のうちマイナ保険証で受付手続きしたケースは、2023年6月時点でも資格確認総件数の約6%にすぎない。もちろん、マイナンバーカードの保有者全員がマイナ保険証の利用登録をしているわけではないが、利用状況は低調と言わざるをえない。この背景には、マイナ保険証を使うことで閲覧できる情報を使った診療や治療にメリットがあると、国民・患者が感じていないことがあるのではないか。実際、厚生労働省が2023年5月に行った調査の結果を見ると、マイナ保険証を利用して実感したメリットは「特になし」という回答が56.5%と最も多い。

同調査では、マイナ保険証を利用することのメリットの認知度についても尋ねている。「特に知らない」の回答の多さが目立つが、直近3ヶ月以内にマイナ保険証を利用して医療機関を受診した患者に限定すれば、「複数の医療機関で処方されている医薬品の重複や飲み合わせの問題等が分かり処方を調整できること」(35.4%)が最も多かった。だが、上記回答がメリットの実感につながったかを聞いた別の質問からは、この項目の認知度が、メリットの実感と顕著な相関性を示す結果は認められなかった。つまり、受診機会の多い患者は、マイナ保険証を使うことで処方薬の重複を回避できることについて比較的知っていたものの、それをメリットとして実感できた人は多くなかったということだろう。

受診機会の多い患者が、重複投薬を避けたいと考えるのは当然だ。マイナ保険証の利用によって、そうしたリスクを回避できる点に注目している患者が、その効果を実感できるようにしなければならない。そのためには、全国に約23万ある施設(病院、診療所、薬局)のうち電子処方箋を導入しているのが、2023年4月23日時点でわずか3,352施設にすぎない状況を早急に改善させる必要がある。電子処方箋には、重複投薬や併用禁忌に対してアラートで知らせる機能が備わっている。

重複投薬の抑制は一例だが、質の高い医療を、患者が明確なアウトカムとして感じられるようにすることがマイナ保険証の利用を促進するカギであろう。お薬手帳や健診記録といった紙媒体を持参した従来の受診とは異なる利点を、実感できるようにすることが重要だ。

マイナンバーカードは2016年からスタートしており、徐々に更新時期を迎える人が増える。利用機会の少なさや実感できるメリットの小ささを理由に、手続きしない人が増えないよう、マイナ保険証の活用を含め、便利で効率的なデジタル社会の構築を急がなければならない。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来