二つのコードの曲がり角~定期的細則的改訂のとりやめへ~

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2023年07月03日

2014年に日本版スチュワードシップ・コードが策定され、その翌年にはコーポレートガバナンス・コードが設けられた。それぞれ3年ごとに改訂され、機関投資家や上場企業はそのたびにきめ細かく様々な対応が求められてきたが、この二つのコードの今後の改訂方針について大きな転換が図られた。2023年4月に公表された、金融庁の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」は、今後の改訂について次のように記している。

◆「また、コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂については、形式的な体制整備に資する一方、同時に細則化により、コンプライ・オア・エクスプレインの本来の趣旨を損ない、コーポレートガバナンス改革の形骸化を招くおそれも指摘されている。」

◆「また、各コードの改訂時期については、必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、その進捗状況を踏まえて適時に検討することが適切である。」

つまり3年ごとの定期的細則的な改訂は、もう行わないということだ。従来通りであれば、今年が日本版スチュワードシップ・コードの改訂が行われる年にあたるはずだが、いまのところその動きはないようだ。機関投資家や上場企業にとっては、朗報と言えるかもしれない。

こうした改訂方針の変更は、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」によると、次のような理由によるようだ。

◆「これらの検証(筆者注:これまでのコーポレートガバナンス改革についての検証)によれば、コーポレートガバナンス改革により、企業価値向上のためには取締役会の機能を高めることが重要との考え方が多くの企業で共有されたとの評価や、直ちに業績に影響するものではなくとも良い方向に向かっているとの評価が見られた。」

長年の改革の成果が、「取締役会の機能を高めること」の重要性が共有されたことというのは、あまりにも当たり前過ぎて力が抜けそうになるが、「業績に影響するものではなく」という記述は、「評価」を紹介する形ではあるが、多くの実務家の実感に沿ったものだろう。コーポレートガバナンス改革に取り組んできたものの、欧米に比して低PBRの上場企業は極めて多い。かつて日本企業は、時価総額で世界の上位に数多く名を連ねていたが、今はどうか。二つのコードで進めてきた改革の効果が疑わしい以上、改訂方針を見直すのは当然だ。

気になるのは、細則化によりコーポレートガバナンス改革がかえって形骸化したのではないかという指摘だ。当初、金融庁と東京証券取引所は2015年8月7日に「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」を設置する趣旨について、「形だけでなく実効的にガバナンスを機能させる」ことが重要な課題と述べたが、そのために続けてきた改革が、むしろ形骸化をもたらしていたとすれば事態は深刻だ。次に二つのコードの改訂があるとすれば、形骸化を招くような条項の廃止を検討するべきだろう。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕