サステナビリティ保証の国際基準、非監査法人でも準拠可能?
2023年06月28日
本年3月の当コラムで、サステナビリティ情報に対する第三者による保証(サステナビリティ保証)に関する国内外の動向を取り上げた(※1)。
サステナビリティ情報に付きまとう「グリーンウォッシング」(うわべだけの欺瞞的な環境訴求)への懸念に鑑みると、サステナビリティ保証の普及は、市場参加者にとって歓迎すべき事象だろう。
その後、本年4月、監査・保証に関する国際的な基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、サステナビリティ保証に係る包括的な保証基準(‘ISSA 5000’)の公開草案を、「7月後半又は8月前半」に公表する旨宣言している(※2)。
その際、IAASBは、‘ISSA 5000’が、「全て」のサステナビリティ保証業務提供者が適用可能な(‘profession-agnostic’)基準となる旨明確化している。
‘ISSA 5000’が‘profession-agnostic’な基準となることもまた、市場参加者にとって歓迎すべき動向だろう。
というのは、国際会計士連盟(IFAC)が本年2月に公表したレポート(※3)によると、日本では、サステナビリティ保証業務提供者の過半数が、非監査法人系の検証機関となっているためである。
そうした業者によるサステナビリティ保証であっても、‘ISSA 5000’に準拠していれば、監査法人系の業者によるそれと同等の信用力を得ることが可能になる。
もっとも、非監査法人系の業者に‘ISSA 5000’への準拠を求めることが妥当であるかどうかは、議論の余地があると考える。
というのも、本稿執筆時点(6月20日)で公表されている‘ISSA 5000’のドラフト(※4)をみるかぎり、既存の保証基準のうち、監査法人に特有の要求事項である、「過去財務情報の監査又はレビュー以外の保証業務」(‘ISAE 3000’)と「温室効果ガス報告に対する保証業務」(‘ISAE 3410’)をベースにしているためである。
前述のIFACレポート(※3)によると、日本のサステナビリティ保証業務提供者にあっては、‘ISAE 3000’(71%)及び‘ISAE 3410’(44%)のほか、「温室効果ガス排出量の算定及び検証を行うための要求事項」(‘ISO 14064’)(48%)にも多くの業者が準拠している(※5)。
‘ISO 14064’は、監査法人に限定されない検証機関に対する要求事項であることから、これに準拠しているのは、非監査法人系の業者であると考えるのが自然である。仮に‘ISSA 5000’が現状のまま成立した場合、これらの業者は、サステナビリティ保証業務の提供にあたって‘ISO 14064’に準拠することができなくなるだろう。
‘ISSA 5000’が、その触れ込みどおり、本当に‘profession-agnostic’な基準となるためには、段階的実施等の経過措置の導入をはじめ、様々な調整が必要となりそうである。
(※5)二つ以上の保証基準に準拠しているケースがあり得る。
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- 執筆者紹介
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
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