サステナビリティ保証とEUタクソノミー適格

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2023年03月08日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

少し時期を遡った話になるが、2022年12月27日、金融審議会より「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(DWG報告)が公表されている(※1)。DWG報告では、今後の検討課題として、サステナビリティ情報に対する第三者による保証(サステナビリティ保証)のあり方を挙げている(※2)。

サステナビリティ保証は、未だルールが確立されていない業務分野である。これについての欧米の動向としては、「当初は限定的保証、ゆくゆくは合理的保証」を求める、という方針が固まりつつある(※3)。

本稿で提示したいのは、サステナビリティ保証を義務付けることに「必要性」があるのかどうか、という疑問である。

こうした疑問を持つに至った理由が二つある。

一つは、サステナビリティ保証を義務付けることは、むしろ、サステナビリティに対する取組みの積極的な開示を妨げることになり、発行会社にとって過度な制約になり得るのではないか、と考える点にある。

いま一つは、投資家保護の観点からも、サステナビリティ保証を任意とした上で、その有無等の開示を求めることで足りるのはないか、と考える点にある。

この点、EU(欧州連合)において2023年1月より「8条ファンド」及び「9条ファンド」の細目開示がスタートしている‘SFDR’(※4)の開示項目が参考になると思われるので、紹介したい。

‘SFDR’では、「8条ファンド」及び「9条ファンド」の細目開示にて、EUタクソノミー(※5)が定める「グリーン」への投資、すなわち「EUタクソノミー適格」のある投資の割合の開示が要求されている。加えて、そのEUタクソノミー適格について、「監査人の保証又は第三者のレビューを受けているか否か、受けている場合はその監査人又は第三者の名称」という開示項目がある。

このように、‘SFDR’においては、EUタクソノミー適格について、保証の有無等の開示は求めているものの、保証そのものを義務付けてはおらず、あくまでも任意としている。

サステナビリティ保証についても、任意としつつ、‘SFDR’のような開示項目をルールとして導入することで足りるのではないかと考えるが、いかがであろうか。

(※2)具体的には、サステナビリティ保証の担い手、保証基準・範囲・水準、制度整備等を検討課題としている。
(※3)なお、サステナビリティ保証については、監査・保証に関する国際的な基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(IAASB)においても基準開発に向けた審議が開始されている。IAASBにおいては、「今後、2023年9月までに基準の公開草案を承認し、2024年12月から2025年3月の間に最終化することが予定されている」(DWG報告p.15)。

(※5)環境面でサステナブルな経済活動領域、すなわち「グリーン」セクターを分類するための基準をいう。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光