「現在」を見ている将来推計人口
2023年06月05日
岸田首相の「次元の異なる少子化対策」が注目されている。折しも国立社会保障・人口問題研究所(社人研)から約5年に1度の将来推計人口が4月下旬に発表され、2070年には総人口が現在の7割に減るという推計結果がメディアを賑わせた。
しかし、50年後の人口など正確に予測できるはずがない。かつての人口問題研究所が1976年に行った将来推計では、2020年の総人口は中位推計で1億3,907万人とされていた。実際には1億2,615万人だったから、東京都の人口に匹敵する約1,300万人下ぶれしたことになる。
もちろん、将来推計人口は人口学に基づいた精緻な数理的成果であり、様々な情報を提供してくれている。ただ、それはprojectionであってpredictionではない。実績として確認された最近の出生や死亡、国際人口移動などの動向を前提にした将来への投影であるという点で、「未来」ではなく「現在」を見ていると考えた方がよい。
そして「現在」は過去のあらゆる営みの結果である。人口が減るという推計が「未来」に起きることの原因ではない。未来の社会構造は変わるし、変えることができる。将来人口の推計には価格というパラメータは組み込まれていないため、賃金上昇によって希望通りの結婚・育児ができるようになったり、物価や地価によって住む場所を変えたりすることは描かれていない。
2000年代になってからの社人研の将来推計(5回分)を見ると、直近推計の出生率の仮定は、極端に悲観的な仮定が置かれた2006年推計に次いで低い。だが、女性の有配偶状況や夫婦の予定子供数、未婚女性の希望子供数などから計算される希望出生率は、それよりだいぶ高い。取り組み方次第で将来の人口規模は大きく違ってくるだろう。
平均寿命の想定は新しい推計が出るたびに延びている。年金支給開始年齢を65歳と決めた1985年当時と比べて、65歳まで生きた人の余命が2070年には男性は7.62年延びて23.14年に、女性は9.42年延びて28.36年になると直近推計では仮定されている。医学の進歩などによって、実際の寿命はもっと長くなるに違いない。
直近推計には、外国人の入国超過数の仮定が楽観的という批判がある。だが、諸外国での人口に占める外国人割合は足下でドイツが13.1%、英国が9.0%であり、日本では1割強になるのが50年も先という推計は控えめかもしれない。コロナ禍の最中を除けば、2015年以降は外国人入国超過数の水準が切り上がっている。総人口の縮み方の見立てが甘いかどうかより、外国人の増加に対応できるかを心配すべきではないか。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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