実質株主の確認と大量保有報告書

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2023年04月24日

甲(金融商品取引法の研究者)と乙(その友人で上場会社の総務部長)の対話

甲:2023年3月2日に開催された第51回金融審議会総会・第39回金融分科会合同会合で、鈴木金融担当大臣から「公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討」が諮問された。事業会社、金融機関、機関投資家など多くの関係者にとって、関心の高いテーマだ。

乙:実質株主の確認についても課題として掲げられているのは心強い。是非、大量保有報告制度を見直して、発行会社が自社の実質株主を把握できるような仕組みを構築してもらいたい。

甲:ちょっと待ってくれ、確かに、大量保有報告制度には、誰が株主かを明らかにする機能がある。しかし、大量保有報告制度は、現行の制度の下でも、形式上の保有者だけではなく、実質的な保有者に対しても報告義務を課している。すなわち、金融商品取引法上、株式等の「保有者」には、例えば、自己又は他人(仮設人を含む)の名義で株式等を所有する者、金銭の信託契約等又は法律の規定に基づき議決権等の行使権限又はその指図権限を有する者であって、その株式等の発行者の事業活動を支配する目的を有する者、投資一任契約等又は法律の規定に基づき株式等に投資をするのに必要な権限を有する者なども含まれているのだ。

乙:そうだったのか。

甲:確かに、これらがきちんと守られているか、という問題はあるかもしれない。ただ、それは制度の問題ではなく、実効性の問題だろう。

乙:わが国の大量保有報告制度には実質株主の把握に不十分な面もある、とも聞くが?

甲:例えば、本人だけでなく実質的に一体となっている者の保有分も合算する「共同保有者」という概念が現行のルールにもある。しかし、誰かが大量保有者になることを知って、これに便乗して株式を買い付ける者や、「合意」があるとまでは言えないものの、企業の戦略を変更させることなどを企図して協調行動をとる者を、現行のルールでは適切に捕捉できないとの指摘がある。その一方で、この「共同保有者」のルールについては、いわゆる協働エンゲージメントを阻害しているとして、逆に規制緩和を求める機関投資家側の声もある。一筋縄ではいかないだろう。

乙:関係者の利害が対立しているのだな。

甲:仮に、事業会社側の期待するような見直しが行われたとしても、大量保有報告制度だけで実質株主の確認が一気にやりやすくなるとは考えにくい。大量保有報告制度は5%以下の保有者には適用がないからだ。

乙:5%の閾値を引き下げようという議論はないのか?

甲:金融機関や機関投資家の事務負担を考えれば難しいだろう。それに閾値の設定によっては事業会社も他人事ではないはずだ。

乙:確かに、資本提携や政策投資などを通じて株式を保有しているからな。

甲:そもそも実質株主の確認の目的が建設的な対話の充実にあるのだとすれば、話を発行会社による確認や把握だけで終わらせてよいのか?

乙:どういう意味だ?

甲:実質株主の側も、確認・把握に応じることで、彼らにどのような権利があるのか、どのようなメリットが享受できるのか、これから設置される審議の場で同時に検討する必要があると思う。対話は一人ではできないのだから。

乙:実質株主の確認・把握だけが突出しすぎると、建設的な対話の拡充はお題目に過ぎず、株主総会での票集めがしたいだけだと疑われる、と言いたいのだな。
相変わらず、甲は意地の悪い言い方をする。ただ、言いたいことはわかる。

甲:意地の悪い言い方かもしれないが、意地の悪いことは言っていないつもりだ。
実質株主の確認については、大量保有報告制度とは切り離して、会社法などを含めた幅広い多角的な議論を、是非、期待したい。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳