望ましい金融経済教育はどのようなものか

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2023年03月15日

昨年末に政府が「資産所得倍増プラン」を発表し、また、2024年からNISAを抜本的に拡充する方針も示された。今後、長年の懸案だった「貯蓄から投資」への動きがいよいよ本格化することが期待される。

資産所得倍増プランは、投資未経験者に「資産形成に一歩踏み出してもらう」ことを目指している。金融庁による調査では、これまで資産運用を行わない理由として、調査対象者の4割が知識がないことを挙げたため、資産所得倍増プランは金融経済教育の充実を柱の一つに挙げている。

では、投資を行ったことがない人が投資に踏み出すには、どのような知識が必要だろうか。投資は損失を被る可能性があるといったことや、高いリターンを得ようとすればリスクも高まるといった基本的な知識は最低限必要だろう。また、長期・積立・分散投資が安定的な資産形成には有効であるといった投資方法に関する知識も必要ではないかと考えられる。

では、投資を行うには投資に関する知識があれば十分なのだろうか。

そもそも投資によって資産形成をするのは、生活に必要なモノやサービスを購入するためにお金が必要だからであろう。近年、若年層で投資をする人が増えているが、その背景には老後の生活費が賄えるかという不安がある。

では、老後の生活費はいくら必要なのだろうか。老後を原則として公的年金の支給が始まる65歳以降の時期とすると、現在、老後の生活費は、夫婦二人で月額平均26万円(※1)ほどであり、仮に老後が25年間だとすると7,800万円必要になる。ただし、老後は年金を受給でき、現在、夫婦二人が得られる厚生年金の標準的な支給額(平均的な収入を前提とした額)は月額約22万円(※2)である。仮に25年間同じ額を受給し続けるとして単純計算すると6,600万円が受給できる。よって、必要額の相当部分は年金で賄うことができ、差額の1,200万円を用意しておけばよいことになる。

しかし、22万円という受給額はあくまで標準的な金額であり、受給額は、現役時代の収入によって大きく異なる。また、そもそも公的年金は、会社員であれば国民年金に加えて厚生年金も受給できるが、自営業であれば国民年金に限られる。そのため、年金以外に投資や貯蓄によって用意しておく必要のある金額は、その人の働き方や収入によって大きく異なる。

このように、投資でいくら準備する必要があるかは、年金に関する知識も重要だが、それに加えて物価動向に関する知識も重要である。最近、身近な商品が値上がりしているニュースがしばしば報じられているが、インフレになればお金の実質的な価値が目減りするため、将来必要なお金の額はそれだけ増えることになる。

そのため、投資を行うには、投資自体に関する知識に止まらず、年金や老後の生活費に加え、物価動向など、お金に関する知識について幅広く身に付けることが必要である。そして、制度は見直されることがあり経済状況も変化するので、知識は一度身に付ければそれで終わりではなく、新たな知識も身に付けていくことが重要である。

金融経済教育を実施する官民の組織は、国民に対してお金に関する幅広い知識を、継続的に提供していくことが求められるだろう。

(※1)総務省「家計調査」(2022年)
(※2)厚生労働省プレスリリース「令和5年度の年金額改定についてお知らせします」(2023年1月20日)

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希