サマリー
- 実質GDP成長率見通し:25年度+0.7%、26年度+0.8%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は25年度+0.7%、26年度+0.8%(暦年ベースでは25年+1.1%、26年+0.7%)と見込む。トランプ米政権の高関税政策(トランプ関税)により不確実性が大きいものの、春闘での高水準の賃上げ継続や物価上昇率の低下などにより、実質賃金(1人あたり雇用者報酬)は前年比プラス圏で推移しよう。賃上げと価格転嫁の循環などにより、CPI上昇率の基調は同+2%程度で推移する見込みだ。家計の所得環境の改善や政府の経済対策、インバウンド需要の増加、高水準の家計貯蓄などが日本経済を下支えしたり、押し上げたりするとみている。トランプ関税が国内外の経済活動に及ぼす影響や中東情勢の緊迫化等による原油高などには警戒が必要だ。
- 日銀の金融政策:日銀は経済・物価・金融情勢を注視しつつ、25年10-12月期に短期金利を0.75%に引き上げ、その後は半年に一度程度のペースで0.25%ptの追加利上げを行うと想定している。予測期間の終盤には短期金利は1.25%に達する見込みだ。実質金利は予測期間を通してマイナス圏で推移し、当面は緩和的な金融環境が維持されるだろう。
- 論点①:現役期の格差是正に向けて再分配政策の強化を:世界的な傾向である格差拡大は、ポピュリズムの台頭による財政不安を招き、経済成長を停滞させるリスクがある。成長の停滞は、人的資本投資の減少を通じて労働生産性を一段と下押しするだけでなく、格差の一層の拡大をもたらし得る。こうした悪循環を避けるため、社会政策だけでなく経済成長の観点からも適切な再分配を行うことが重要である。日本の格差は現役期における貧困層の困窮に特徴があるため、給付付き税額控除の導入や所得税の累進性強化が格差縮小に有効だろう。消費税の逆進性解消や、大陸欧州並みの税・社会保障の純負担率を実現するためには、0.6~2.9兆円程度の財源が必要だが、消費税の軽減税率廃止や所得税収の増加によって手当てできる。これによりジニ係数を現在の0.34から0.32~0.33程度に低下させ、労働生産性向上に最適な水準と試算される0.31程度に近付けることができる。
- 論点②:財政拡張が経済に与える影響とそのリスクの定量評価:各国・地域の財政と経済の長期的な関係を整理したところ、政府債務残高対GDP比が98%を超えると、財政拡張が経済成長率を押し上げる効果は減衰する。日米はすでにこの閾値を超え、中国も近づいている。これらの大規模経済圏では財政政策が従来通りには機能しない可能性がある。また、日本では財政収支赤字の継続で国債発行残高が増加する一方、GDP対比の政府債務は低下している。だが、これはインフレによる一時的な効果にすぎない。債務残高対GDP比が40年にかけて100%pt高まれば、国債格下げでGDPギャップが1.5%pt低下するだけでなく、ソブリン危機発生確率を75%に高め得る。一時的な財政改善効果に頼り過ぎることなく、成長力強化や財政健全化などを着実に進める必要がある。
【主な前提条件】
(1)為替レート:25年度146.9円/ドル、26年度147.7円/ドル
(2)原油価格(WTI):25年度63.2ドル/バレル、26年度62.3ドル/バレル
(3)米国実質GDP成長率(暦年):25年+1.7%、26年+1.7%
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