期待のAIエージェント、まだ製品カタログ通りにはいかない
2025年08月21日
ビジネスシーンでは今、AIエージェントが花盛りだ。
IT各社はこぞって、「AIエージェント製品」や「AIエージェントサービス」をリリースしているし、(※1)、(※2)、(※3)、(※4)、(※5)
顧客企業を訪問する際も、AIエージェントの情報提供やディスカッションが、一番「うける」。
企業からの情報提供リクエストも非常に多い。
AI専門家として長くキャリアを築いてきた身からすると、有難いビジネストレンドなのは間違いないが、同時に疑問や懸念も湧いてくる。
そのようにものすごく関心の高いAIエージェントだが、実際に業務導入できている企業はどれくらいあるのだろうか?
マッキンゼーのレポート(※6)には、AIエージェントの導入検討を試行したユースケースのうち、PoCで効果を確認して本導入まで到達できるものは10%未満であると、調査結果が記されている。しかも、効果が限定的なケースが多いことも示されている。
この記述は、実際にAIエージェント導入を支援している各顧客企業の状況とも一致していると感じられる。生成AIツールの企業導入は大いに進んだが、AIエージェントの企業導入は、まだどこも始まったばかりだ。
ITベンダー各社が、自社のAIエージェント製品の「簡単さ」と「効果」をおおいに標榜しているが、実際に「本格的な」AIエージェントの導入を試してみると、そのミッションは非常に難しい。製品カタログのシナリオ通りには進まない。
今回のコラムでは、実際に企業へのAIエージェント本格導入を検討した初期の初期に、現段階で誰もが突き当たる代表的な障壁を2つ、簡単に例示していきたい。
① AIエージェントは「何が出来るべき」か、認識がチーム内で合わない
AIエージェントは現在花盛りだが、それでもまだ、普及初期段階のテクノロジーコンセプトだ。つまり、「AIエージェント」と聞いた時に何を思い浮かべるのか、まだ「ヒトによって異なる」フェーズにある。しかも、導入現場の社員と経営層とで、思い浮かべる内容に差異が発生するケースがしばしばあるので、非常に面倒くさい。
マッキンゼーのレポート(※6)では、企業でのAIエージェント導入が段階的に進む予想が語られている。まずは、『既存の業務フローを前提としたAIエージェント』。既存業務フローの、各個別タスクをそれぞれAI対応していき、オーケストレーターと呼ばれるAIが、各AIを自動化制御する。オーケストレーターAIは、パターンの限られた選択肢の中から業務ゴールの理解と実行計画の立案を行う。AIによる自律的判断を必要とするが、業務フローの実行契機は人間から始まる。
次の段階のAIエージェントは、『既存の業務フローを一変させるAIエージェント』。業務フローを一連実行するために必要な部品となるサブエージェントAI群を引き連れつつ、人間と頻繁に対話しながら協働する。人間はAIからの質問・相談・打診・提案・助言・依頼に対応していると、気が付けば仕事が終わっている。人間に向けた自発的なコミュニケーションを行う能力があり、業務フローの実行も能動的。もう、人間の指示は待たないし、無限に近い行動パターンの中から最適解を選びつつ、次のアクションを推進する。
前者と後者で、AIエージェントの導入検討方法は全く違ってくるのだが、それにも関わらず現時点では、「AIエージェント」と聞いた時に前者を思い浮かべるビジネスパーソンと、「後者」を思い浮かべるビジネスパーソンが、まだばらばらに存在する。現場のビジネスパーソンは「前者」を、経営層は「後者」を思い浮かべる傾向が強いようだ。
当然、完成形のイメージがチーム内ですり合わないままでは、AIエージェント導入プロジェクトが成功する勝算は低い。そもそもAIエージェントとは何かというゴール認識を、現場から経営層まで、事前にチーム内ですり合わせる活動が、AIエージェント導入検討の最初の最初に必要となる。
なお、現時点の技術では前者のAIエージェントを実現するので精一杯なので、今すぐに後者のAIエージェントの実現を目指すようなプロジェクトは、プロジェクトの沈没に備えた方が良いかも・・・
② AIエージェントの手足は、想定よりも不器用
AIエージェントが目の前にあったら、何の仕事をしてもらいたいだろうか?
こういったケースですぐに、また頻繁に、出てくるシナリオが以下のようなものだ。
『いつものエクセルを開いてー、マクロを動かしてー、処理結果をコピーしてー、ブラウザを立ち上げてー、社内ツールにアクセスしてー、処理結果を入力してー、実行ボタンを押してー、その結果を保存しておいてほしいなあー』
自分の身の回りで、真っ先に思いつくルーチン作業をあげていただいたのだろう。有難い限りなのだが、ここで深く注意をしなければならない大きなポイントがある。あげられた作業のほとんどは、ITベンダー各社が提供するAIエージェント製品そのまま、ノーカスタマイズでは、ほとんどが実現できない。現時点において、私はそう評価している。
理由はシンプルだ。AIエージェント製品のAI達は、当然みんなクラウドにいる。クラウドから、PC・クライアントまで降りてきて、PC・クライアント側のいろいろな操作を行うアクションは、総じて苦手だ。AIエージェント製品は原則的には、PC・クライアント側に降りてこず、クラウド側で実行完結可能なタスクに限定して、自己判断や自動化を可能とするような技術構成となっている。エクセルもブラウザも、クラウドサイドで処理を完結させられる普段とは異なる特別なデータと仕組みの構成を前提に、AIエージェントに操作をさせることができる。何のカスタマイズや追加実装もなしに、PC・クライアント上での普段と同じエクセルやブラウザの操作を、AIエージェントに実行させることは、原則的にはできないと考えた方が良い。
各ITベンダーの視点からすると、「その通りですが、何か?」ということなのだろう。しかし、顧客企業のビジネスパーソンからは、『そうとは思っていなかった。自分の普段の操作と同じ作業をAIエージェントができると思っていた。』という意見が多い。AIエージェント導入プロジェクトで、事前に知っておかねばならない(けれど知ることができない)、大きなイメージ乖離ポイントのひとつと言え、注意が必要だ。
その他にもAIエージェント製品では、一問一答のシーンが多かった生成AIツール利用のケースよりも、AIの呼び出し回数が増え、それにともなってトータルのアウトプットミスも増えるとか、セキュリティの問題とか、導入検討に際しての大きな問題が、まだいくつか存在する。
いくつかのAIエージェント化初期ユースケースが軌道に乗り、安全性と導入効果検証が一定に安定するまで、専門家による伴走が必須なIT製品に、見えてならない。しかも、AIエージェント製品のカタログ内容を主張するのではなく、実態を理解した、慎重な専門家による支援が必要だ。
AIエージェントは今、花盛りだが、同時に非常に難しいテクノロジーでもある。
お問い合わせは、大和総研まで。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
フロンティア研究開発センター
フェロー 坂本 博勝