宴の後に迎えるスポーツイベント中継の未来予想図
2023年02月22日
FIFAワールドカップカタール2022(W杯)はアルゼンチンの優勝で幕を閉じ、チーム(代表、クラブ)、個人で数多のタイトルを獲得してきたリオネル・メッシ選手は唯一残されたタイトルを手中に収めることができた。彼が優勝トロフィーを掲げたシーンはFCバルセロナでのデビュー当時からの活躍を知る者にとって感動的な瞬間となった。
日本代表は予選リーグで歴代優勝国のドイツ、スペインに勝利する快挙を果たしたものの、まだ見ぬ新しい景色(ベスト8以上)には届かなかった。
W杯はインターネット放送局のABEMAとNHK、テレビ朝日、フジテレビで放送されたが、筆者は開幕前のソーシャル経済メディアからの取材で「今回のW杯は、スポーツ中継の転換期を示す大会になるかもしれない」とコメントした(※1)。ABEMAが無料で全64試合の配信を行ったことにより、「いつでも、どこでも、あらゆるデバイス」による視聴スタイルが可能になり、その点では「新しい景色」を実感させる大会であった。
2023年に入り、まもなく野球のWBCが開幕する。日本代表の全試合と準々決勝の一部、準決勝、決勝がテレビ朝日とTBSにより地上波で生中継されるだけでなく、Amazon Prime Videoによりライブ配信されることも発表されている。ワールドカップはFIFA女子に続いて、バスケットボールやラグビーの開催も控えており、地上波による放送だけでなく、ライブ配信が行われることも予想される。
そして、2024年にはパリでオリンピック・パラリンピックが行われる。NHKと日本民間放送連盟で構成する「ジャパンコンソーシアム(JC)」がオリンピックの放送権を獲得しているが、FIFAワールドカップやオリンピックでの民放の収支は近年、厳しい状況に直面している。
一方、米国で独占的にオリンピックの放送権を持つNBCに関しては、東京大会での地上波に配信を加えた広告収入が過去最高であったと報じられている。
東京や北京と同様にパリ大会でのライブ配信はNHKプラスやTVerによって行われるものと推測する。放送権の契約形態の違いや開催地との時差による放送時間から米国のような効果が得られるとは一概に言えないが、TVerは2023年4月よりリアルタイム配信のすべてのCM枠をセールス対象の予定にしており、パリ大会における収益拡大の試みが期待される。
現在の状況が続くと、オリンピックの放送権は現行の契約が切れる2034年の冬季大会以降、W杯と同じくJCのスキームでは獲得できない可能性も考えられる。スポーツイベント中継で動画配信事業者の存在感が増すことは時代の趨勢であるが、大型スポーツイベントの視聴機会を幅広く提供できるよう持続的な手立てを早急に講じるべきではないだろうか。
(※1)NEWS PICKS「【初づくし】カタールW杯、3つの「前代未聞」の理由」2022年11月19日
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