米国で感じた“データサイエンティスト”という言葉の意味合い

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2023年02月08日

金融機関の中期経営計画のDX(デジタルトランスフォーメーション)に必ずついて回る言葉がデータサイエンティストである。しかし、昨年末の米国出張時、非常にDXに長けた大手金融機関を訪問した際にデータサイエンティストなる言葉を発したところ、先方の担当者に怪訝な顔をされた。データサイエンティストの数、その役割などの質問を投げかけた時の反応である。先方が、その理由として挙げたのは、「データサイエンスはすべての従業員があらゆる場面で活用し、いわゆる会社の基盤になっており、データサイエンティストという言葉を使って職種を特別に区分けしていない」ということであった。米国で感じた“データサイエンティスト”という言葉の意味合いが、一般的に日本で語られているデータサイエンティストとは異なることが分かった。当然ながら高度なデータサイエンスを駆使する専門家は研究開発部門に多数在籍しているが、専門性のレベルの違いはあれど、従業員全員がデータサイエンティストであるとの認識であろう。

このようなデータサイエンスが基盤となっている金融機関では、高度なデータサイエンスを駆使して導いた複雑な結論を、社内の営業員の誰もが分かるように、あるいは営業員が顧客に説明できるように、納得させるコミュニケーション・スキル、ストーリーテリング・スキルに秀でたデータサイエンスの専門家の存在が重要である。例えば、数千あるリスク要素から導き出した結論を、3つのリスク要素にしぼって簡潔にわかりやすく説明できるデータサイエンスの専門家の重要性が高いということである。もちろん、その専門家が機能するためには、その企業に有用なデータが豊富に蓄積していること、それが日々の環境変化に応じて、調整を加える洗練された分析手法で日々活用されていることが必要となる。後者の視点では、データサイエンスの専門家は、いわゆる長きにわたり優れた伝統を受けつぐ“うなぎ屋の主人”のようであり、気温、湿度などの状態(=マーケットの状態)によって、日々継ぎ足している秘伝の“たれ”=“データサイエンス”を熟成している。そのレベルまで熟成されないとデータサイエンスを活かしたサービスを顧客に提供できない、効率的に儲ける仕組みを構築できないということであろう。

このようなデータサイエンスが、基盤である金融機関のプラットフォームに実装されたときに、新たな付加価値が生まれ、それが目指すテクノロジーあるいはサイエンス・ドリブン型(=駆動型)のDXが可能となろう。そこではデータサイエンスの専門家も営業員と同じように、顧客に提供するバリュー(付加価値)を常に追求することが求められる。それによって初めて、データサイエンティストの真の価値が示されることとなり、「形式的な変革」を超えたDXが実現することになる。将来的に日本において、このような真のDXに取り組んでいる金融機関が増えることを切に願う。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢