コロナ後遺症がインフレを助長?

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2023年02月03日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

世界の多くの地域で、程度の差こそあれウィズコロナへの移行が進んでいる。感染拡大防止と経済活動のバランスに関しては、各国・地域の当局や医療の専門家に加えて、一般人も未だ模索中であるといえようが、一律での行動制限は避けられる方向になっている。

新型コロナウイルスの感染者数は報告されているだけでも世界全体で延べ6.7億人を超え、感染の経験はある意味当たり前の状況になってきた。その中で、コロナ感染経験者の後遺症(罹患後症状)の問題が取りざたされている。筆者が身近なコロナ感染経験者に話を聞く限りでも、確かに疲れやすいなどの声が聞かれる。

公的機関のコロナ関連情報サイトや、世界のニュース等で伝えられるところでは、後遺症の発生割合は感染経験者の約1割から5割程度までとばらつきはあるものの、無視できない高さである。また、罹患時に症状が重かった人ほど発生割合も高まるようだ。多くの研究で最多の症状に挙げられているのが疲労や倦怠感となっている。もちろんこれらの研究は現在進行中であり、現段階で評価するのは拙速というものだが、今後も注視しなければならないだろう。

このコロナ後遺症は、社会に思わぬ余波をもたらしている可能性がある。それは労働力不足だ。

金融市場において注目度が高い米国の雇用統計では、直近で失業率はコロナ前の最低水準に並ぶ改善となる一方、労働参加率はコロナ前よりも未だ1%ポイント程度低く、落ち込みが戻りきっていない。労働参加率が戻らない理由としては、主に高齢層の早期リタイアや、学生ローンの返済猶予実施による復職の様子見ムードなどが指摘されている。しかし、米国での感染者数は統計上でも延べ1億人を超え、実際には更に多いと見込まれる。前記の理由に加えて、壮年・若年層でもコロナ後遺症の影響で働くことに二の足を踏む事例が少なくないのではないか。仮にそうだとしたら、それが労働力不足と賃金の高騰に拍車をかけ、高インフレの一因となっている可能性があろう。

わが国でも、対人接触型のサービス業を中心にコロナ後の就業者数の戻りは鈍い。特に人手を要するサービス業で労働力の回復が遅れるならば、これまで製造業の回復を阻んできた半導体や部品不足だけではない、新たな供給制約となり得る。ウィズコロナへの移行で特に期待されるインバウンドの回復にも影を落としかねない。また経営者は賃金の引上げで打開を図る一方で、雇用コストの上昇を価格に転嫁する動きも進むだろう。

コロナ後遺症の存在が労働力不足の長期化や深刻化に拍車をかけているならば、インフレ率の高止まりや金融引き締め等を通じてマクロ経済の成長にも悪影響を及ぼすおそれがある。コロナ後遺症については、更なる分析とともに治療法の確立が待たれる。

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佐藤 光
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