あまり語られない電気自動車の普及を阻む盲点

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2023年01月13日

2023年の干支は兎(うさぎ)だ。次の兎の年は12年後の2035年であるが、それまでに日本で国内新車販売の全てが電動車(※1)に移行することが決定している。2022年12月には日本カー・オブ・ザ・イヤーを軽規格の電気自動車が受賞し、日本で電気自動車が本格的に普及するきっかけとなるのではと話題になった。ただ、欧州ではノルウェーやスウェーデンのように既に新車販売の半分以上が電動車となるなど(欧州自動車工業会:ACEA)、世界では急速に乗用車の電動化が進んでおり、日本でもさらなる普及が急がれる。

世界における乗用車のもう一つのトレンドは、以前、筆者が弊社コラム(※2)で書いたように、SUV化だ。SUVは車高や最低地上高が高い車であり、悪路でも走破しやすい車だ。SUVでは重心が高くなるため、走行安定性を確保するには車幅を広げる必要がある。またSUVだけでなく、近年はどのタイプの車も衝突安全性能を高めているため全体的に車幅が広がっており、乗用車は年々、大型化している。日本ではこれまで国内の道路事情を考慮した比較的車幅の狭い乗用車(いわゆる5ナンバー車)が多かったが、上記の理由に国内市場の縮小の影響も加わって、日本車でも世界的なトレンドに沿った、大きなサイズの乗用車の販売割合が増えている。

こうした乗用車の電動化・大型化は、充電設備の不足やマンションなどの駐車場に停められないという新たな問題を引き起こすことは、先のコラムで言及した。充電設備については充電に時間がかかるという別の問題もあり、政府は現在、規制緩和によって高出力の急速充電が可能な設備を増やすことを検討している。

一方、こうしたトレンドで報道など一般的にあまり語られないもう一つの課題は、乗用車の電動化でバッテリーを搭載することにより増える車両重量だ。実は同じサイズの車と比べると、電動化によりおよそ200kg~500kgも車両重量が増える傾向にある(※3)。そのため、マンションなどの機械式駐車場の標準的な車両重量制限である2,000kgを上回る事例が増えることになり、この点でマンションの多い都市部における電気自動車の普及を妨げるかもしれない。

近年、機械式駐車場を製造する会社でも上記の充電設備の不足や乗用車の大型化に対応する動きはみせており、例えば、機械式駐車場には後付けで充電設備を設置することや、車を駐車させるパレットと呼ばれる鋼板を車幅の広いものに交換することができるなど、費用は掛かるものの対応は可能になりつつある。しかし、車両重量が増えることへの対応は、私の知る限りまだあまり進んでいないのではないか。しかも、車両重量オーバーの問題は機械式駐車場の構造から見直す必要があるため、対応する場合には他の2つよりも相当の費用が掛かることが予想される。したがって、車離れが進む現在においては、こうした対応はハードルが高いためにマンションでの総会決議も得られにくいのではないかと思われる。

今後、バッテリーの小型化等が進めば車両重量の問題は解決するかもしれないが、当面はこうした盲点が、電気自動車の普及が期待される都市部でネックとなる可能性があるだろう。

(※1)日本の場合、対象となる電動車には「電気自動車(BEV)」「燃料電池車(FCV)」「プラグインハイブリッド車(PHEV)」「ハイブリッド車(HEV)」の4車種が含まれる。一方、欧州の場合は2035年以降に販売可能なのはBEVとFCVの2車種のみであり、PHEVとHEVは除外されている。

(※3)ベースとなる車が共通で電動化の有無による車両重量の違いが比較しやすい欧州車を例にとると(非電動車→電動車)、メルセデス・ベンツGLA(1,510kg~1,710kg)→同EQA(1,990kg)、BMW X3(1,830kg~2,050kg)→同iX3(2,200kg)、ボルボXC40(1,650kg~1,720kg)→同XC40 Recharge(2,150kg)など、電動化で車両重量が大幅に増えている。日本車で車格の近いものと比較しても、トヨタ ハリアー(1,530kg~1,630kg)/同RAV4(1,500kg~1,630kg)→同bZ4X(1,920kg~2,010kg)と、やはり電動化で車両重量は増えているのが分かる。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄