マンションの一住民が感じた車購入の壁

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2022年04月13日

15年ほど前に購入した車もそろそろ買い替えの時期かなと思い、今年に入っていろいろなディーラーを見て回っている。車を買った当時は「燃費」が一つのキーワードだったが、現在は自動運転を視野に入れた先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver-Assistance Systems)やバッテリー式電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)といった環境対応車などの多様なキーワードに溢れているという印象を受けた。

同時に感じたのは、前回購入したときよりも車が大型化しているということだ。乗用車は大きく分けると、「軽四輪」「小型車」「普通車」の3つに区分できる(道路運送車両法)。「軽四輪」はいわゆる軽乗用車であり(※1)、日本の道路事情に適するとされる「小型車」は車両の長さ4.70m以下、幅1.70m以下、高さ2.00m以下、排気量が2,000cc以下(※2)の全てを満たす「軽四輪」以外のもの(乗用車では5ナンバーと呼ばれる)である。上記の定義から、「小型車」の条件のうち一つでも、例えば車両の幅だけが1.71mとなれば、3ナンバーと呼ばれる大型の「普通車」に区分される。

グラフが示すように、2021年度は新車販売台数のほぼ4割が大型の「普通車」となっており、ここ数年は「軽四輪」のシェアよりも高い。一方、15年ほど前は販売台数の4割近くであった「小型車」のシェアは直近で26%程度とかなり低下しており、現在の日本の乗用車販売は「普通車」と「軽四輪」で二極化している。「普通車」のシェアが高まった背景には、大人数が乗れるいわゆるミニバン(セミキャブワゴン)の人気が高いことに加えて、自動車市場のグローバル化で輸入車が増えていること、そして車高や最低地上高を高くしてオフロードでも走破性の高いSUV(Sport Utility Vehicle)と呼ばれるスポーツ用多目的車が世界的に人気なことなどがある。実際、一般社団法人日本自動車販売協会連合会によると、日本における輸入車の販売台数は「普通車」を中心にそのシェアを伸ばし(2004年度5.6%→2021年度:8.5%)、さらに国産・輸入車を合わせたSUVの販売台数は、足元で全体の乗用車販売台数が落ち込む中、2021年度でも前年比+22%と大きく増加している。

こうした乗用車の大型化は、都市部を中心としたマンションの居住者にある問題を引き起こす。それは、マンションでよく使われる機械式駐車場に入らない車が増えてくることだ。機械式駐車場が許容する平均的な車両のサイズは、長さ5.00m以下、幅1.85m以下、高さ1.55m以下、車両重量2,000kg以下(筆者調べ)となっている。このうち、駐車位置(機械式駐車場の最上部など)によって高さが1.55mを超えても大丈夫な場合はあるが、問題なのは「幅1.85m以下」という制限である。特に近年はSUVを中心に車幅が1.85mを超えるものが多く、そうでなくても車幅が駐車場の制限幅ギリギリになるというケースが増えている。このように都市部のマンション居住者にとっては、おのずと乗用車の選択肢が狭められてきている。

さらに、電動車への充電設備をマンション内でどう設置するのかという新たな問題も浮上している。賃金が伸び悩む中、近年は教育費など他の費用も高くなり、宅配サービスや公共交通機関が充実している都市部では、特に車の購入・維持費が割高と感じる人々が増えている。その結果、車を手放すマンション住民も多く、マンションの機械式駐車場の空きスペースが深刻な問題になっている。こうした状況下で、共有施設となる充電設備を新たに設置することに住民の間で合意が得られるかどうかは難しい問題かもしれない。加えて、足元では半導体不足等に起因する納車時期の大幅な遅延(中には納期まで4年を要する車もある!)もあり、これらが車離れを加速させる要因ともなりかねない。

もっとも、コロナ禍で移動手段としての車が注目されている。さらに、月々の支払いを抑える残価設定ローンなどの購入手段も多様化しているだけでなく、日本は自動運転の制度的環境が世界で最も整備されており、車の魅力を高める弛まぬ努力が続けられている。そうした努力がさらに実を結ぶためには、マンションの居住者が車を購入する際に直面する壁の解消に向けて、車メーカーは車幅1.85mに対する当面の配慮、機械式駐車場のメーカーは車幅制限を緩めること、そして政府は機械式駐車場の拡張や充電設備の設置に補助金で支援することも今後は必要となるのではないか。

乗用車新車登録台数と内訳シェア

(※1)厳密には、長さ3.40m以下、幅1.48m以下、高さ2.00m以下、排気量660cc以下の全てを満たす車両を指す。
(※2)なお、ディーゼル車については排気量の基準の適用はない。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄