中間選挙後の米国ESG投資政策はどうなるか

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2022年11月25日

2022年11月8日に行われた米国連邦議会中間選挙では、下院で共和党が多数派を獲得し、上院では民主党が多数派を維持した。その結果、2023年1月に始まる第118回議会は、上院と下院で多数党が異なる「ねじれ議会」となる。

ねじれ議会の下で、バイデン政権の優先課題の一つである米国のESG投資政策はどのような展開が予想されるだろうか。民主党は、引き続き積極的に政策を推進することが想定され、例えば、2021年6月に下院で可決された“Corporate Governance Improvement and Investor Protection Act”のような、投資家保護の観点から上場企業に対しESG関連情報の定期的な開示などを求める法案を検討することが考えられる。一方、これまで民主党の政策を批判してきた共和党は、2022年3月に提出された“Ensuring Sound Guidance Act(ESG法案)”のような、個人投資家の退職金や投資口座に関して、環境や社会的目標をリターンよりも優先させる資産運用者から個人投資家を保護することなどを目的とした法案を推し進めることが考えられる。ただし、両党の意見は対立するため、これらの法案が議会で成立する可能性は低い。中間選挙で共和党が下院で過半数を奪還したことで、議会民主党によるESG投資政策の推進は、今後少なくとも2年間は困難になったといえるだろう。

一方、バイデン政権下ではSEC(証券取引委員会)が投資家保護の観点から気候変動開示規則案などESG投資に関わる規則(※1)の策定を進めており、中間選挙後もこの取組みは継続する。これに対して、SECを監督する下院金融サービス委員会の次期委員長候補であるパトリック・マクヘンリー下院議員は、2022年3月にSECが気候変動開示規則案を公表した際、「議会で法案を可決できないバイデン政権は、金融規制当局を通じて気候変動に関する議題を推し進めている。多くの企業にとって重要でない気候変動に関する情報開示を義務付けるSECの提案は見当違いだ。(中略)環境政策を決定するのは議会の仕事であり、適性のない、選挙で選ばれたわけでもない官僚の仕事ではない」と述べ、バイデン政権の取組みを痛烈に批判している(※2)。もっとも、手続きとしては規則案については議会を通す必要はなく、下院共和党は規制当局の規則策定を直接的に阻止したり、規則案を廃案にしたりすることはできない。バイデン政権の取組みは基本的には継続するだろう。ただし中間選挙後は下院共和党による金融規制当局への監視が強まり、規則の策定が遅延する可能性は残る。また、マクヘンリー下院議員が指摘するように、その内容は本来、法律で定められているべきものであり、当該規制当局に規則を策定する権限がないといった理由で訴訟が発生し、規則が無効となる可能性にも留意しなければならないだろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬