「覇権争いの中、人口減少国に転落する中国」(党大会の注目点バージョン)

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2022年09月22日

筆者はこの9月に「覇権争いの中、人口減少国に転落する中国」と題するレポートを執筆した。今回はコラムという機会を活かして、「党大会の注目点バージョン」として少し深掘りをしていきたい。

国連の“World Population Prospects 2022”によると、中国の人口(中位推計)は2021年(7月1日時点)の14億2,589万人をピークに減少に転じた。とりわけ衝撃的なのは住宅の実需層を形成する年齢層の急減である。30歳~34歳人口は過去10年間で29.5%増加し、2021年は1億2,280万人となった。しかし、同推計はこの年齢層は今後の10年間で34.7%減少し、8,021万人まで減るという。今後は実需の減少に合わせた供給の調整を行う必要がある。不動産の開発と販売に依存した経済発展パターンはもはや立ち行かなくなる可能性が高いということだ。

同推計では、2100年の中国の人口は7億6,667万人に減少するとしている。これは2019年版の推計より3億人も少ない。背景には、産児制限緩和の効果が限定的であること、住宅コストや教育コストが高騰していることなどを受けて、将来の合計特殊出生率の推計が大幅に引き下げられたことがある。一方で、少なくとも今後数十年にわたり中国と覇権争いを演じるであろう米国の人口(中位推計)は、2100年まで増加すると見込まれている。2021年の中国の人口は米国の4.2倍であったが、2050年時点では3.5倍、2100年時点では1.9倍に縮小する。今後、米中の人口比は縮小に向かい、中国の人口規模の優位性は徐々に失われていく可能性が高い。中国にしてみれば、自国の合計特殊出生率を中位推計以上に安定的に維持することが、極めて重要な政策課題となろう。

こうした中で、中国は5年に一度開催される最重要会議である第20回党大会の開幕を10月16日に迎える。1週間ほどの会期中に今後5年の基本方針を決定し、閉幕直後の会議で新指導体制が選出され、習近平総書記の3期目がスタートする予定である。様々な注目点がある中で、筆者が注目するキーワードは「覇権争い」である。中国は覇権を争わないというのが建前である以上、実際にこの言葉は使われない。米国と競争するには、何をすべきか。まずは「イノベーション」を一丁目一番地とする、「協調(バランス)」、「環境」、「開放」、「共享(分配政策)」の5つの発展理念(新発展理念)は引き続き重要なテーマとなろう。この他、中国の出生率を引き上げるアグレッシブな「奨励」策が打ち出されるかどうかに注目したい。これは2人目、3人目の出産に対するこれまでの「容認」であってはならず、手当の支給や各種費用・税金の減免などが含まれなければならない。早期に打ち出されなければ、人口動態からは、長期・超長期的に中国が苦戦を強いられることが決定的になるのではないか。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登