根強い「不景気マインド」

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2022年08月24日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

日本の経済状況について、ニュース等で話題となる度に取り上げられるのが、「今は景気が悪いので・・・」「もっと景気が良くなれば・・・」といった不景気を憂える“一般庶民の声”だ。五輪や万博、選挙といった国家的イベントをはじめ、連休や旅行等の季節の話題にもこれらが付きまとう。まして、値上げや増税等で家計負担が増加するニュースならなおさらだ。

出る杭は打たれることへの恐れのためか、今の日本では個人レベルで景気の良い話をする人が少ないように思う。また、SNSの時代において、ネガティブな声は宣伝を目的とした発信ではなく本音であるとみなされ、それに追随する動きも目立ちやすい。多くの人にとって、世間への不満を発信することが、他者の共感を得る近道となっているのだろう。経済状況に関しては、不景気の方がネタになりやすいことから、結果的に「不景気マインド」も蔓延しやすいのではないか。

このような「不景気マインド」は、景気指標にも垣間見られる。「街角景気」を表すとされる内閣府の景気ウォッチャー調査を見ると、直近(2022年7月分)まで比較可能な2002年以降の季節調整値のデータにおいて、現状判断DI(合計)が景気下向きを示す50未満となった確率は約73%にのぼる。さらに、分野別のデータで家計動向に関わる同DIに至っては、景気下向きの確率が約85%に達する。過去20年のうち17年ほどは不景気だった(と感じられていた)という計算になる。これをそのまま受けとめれば、大恐慌でも足りないほどの悲惨な状況である。

一方、同じ内閣府発表でマクロ的に景気を捉える景気動向指数を見ると、様相は大きく変わる。上記と同じ2002年以降のデータでは、一致指数DIが50未満となった確率は約29%にとどまる。“声なき声”を含む全員の行動結果を反映するマクロ統計からは、過去20年間において景気は拡大期間の方が長かったと解釈できる。これは、同時期にみられた企業収益の拡大や株価上昇などとは整合的である。ただし、近年の日本では企業収益の伸びに対して賃上げが不十分と指摘されている。このことが二つの統計の乖離の一因といえようが、それでも極端な差が出ていることからは、マインド把握の難しさが感じられる。

最近まで、日本では「デフレマインド」が問題とされてきた。しかし、足元の物価上昇も手伝い、やや不本意なかたちとはいえ「デフレマインド」は解消しつつあるといえる。物価のように変化を半ば強制されるわけではない分、困難な道ではあろうが、今後は「不景気マインド」の解消を目指すべきではないだろうか。これは人を重視する「新しい資本主義」推進への一つのカギとなるかもしれない。

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佐藤 光
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