「資産所得倍増プラン」に何を期待するか

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2022年08月02日

2022年5月5日に岸田首相が英ロンドンの金融街シティーで発言した「資産所得倍増プラン」が注目されている。その後6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「資産所得倍増プラン」について、「家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある」とし、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充やiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、金融リテラシー向上に資する金融教育の充実、将来受給可能な年金額や保険額も合わせた全体の見える化など、幅広い支援策が挙げられた。

NISAについては非課税枠の拡大や非課税期間の恒久化、iDeCoについては現行65歳未満の加入可能年齢の引き上げなどの具体策が検討事項となりそうだ。近年、人々の資産形成への意識は確実に高まっている。NISAやiDeCoの利用者増加の流れを加速させるためには、制度の拡充策が必要だ。

だが、それ以上に重要なのは、金融教育の充実や年金額等の見える化である。なぜなら、資産形成を実践できていない人々の意識醸成を促す必要があるからだ。実際にNISAやiDeCoを利用しているのは、まだ一部の人々にすぎない。制度利用者のすそ野をどれだけ広げていけるかが、プラン成功のカギを握るといっても過言ではないだろう。

金融教育の経験は、資産形成の実践につながる可能性が高い。投資信託協会「2021年(令和3年)投資信託に関するアンケート調査 調査結果サマリー」(2022年3月)では、投資信託の保有経験層は保有未経験層と比べて金融教育の経験がある人の割合が高いことが示されている。学校向け金融教育では、中学校で2021年度、高校で2022年度から金融教育の項目が追加され、大学向けの教育活動に注力する金融関連団体もある。若年期に金融教育を受けた経験は、社会人になってからの資産形成で役立つはずだ。一方で、社会人向けには主に企業型DC(確定拠出年金)の投資教育機会が考えられるが、企業型DCを導入していない企業でも、職場積立NISAや職場iDeCoの仕組みを活用するなど、教育機会を提供できる方法はある。職域を通じた金融教育の推奨も具体策の一つとなりそうだ。

年金額等の見える化では、英国で資産形成の意識醸成を狙いとして進められている、個人が自身の資産状況をオンラインで一元的に把握できるツールとしての年金ダッシュボードの開発が参考になる。日本でもすでに厚生労働省が「公的年金シミュレーター」の試験運用を2022年4月に始めた。次のステップとして、民間事業者のアプリ等との連携により保有金融資産なども含め一元的に資産管理できる仕組みの構築が検討されている。年金額等の見える化は、早急に取り組むべき課題である。

また、本コラム欄での拙著「フィンテックによる新しい金融サービスが資産形成を促す」(2021年5月10日)(※1)で指摘したように、オンラインだけで完結する口座開設や家計簿アプリを活用した資産管理など、資産形成を始める上でフィンテックを用いたサービスが役立つ機会は多く、さらなる技術革新を支える施策も重要な論点といえよう。本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」が策定されるが、制度利用者のすそ野拡大につながる抜本的な支援策を期待したい。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 佐川 あぐり