米証券会社は顧客の利益を最優先できるようになったのか

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2022年02月17日

米国証券業の自主規制機関である金融取引業規制機構(Financial Industry Regulatory Authority, 以下FINRA)は、2022年2月10日に「検査・リスクモニタリングプログラムに関する報告書2022」(※1)を公表した。同報告書は、会員企業であるブローカー・ディーラー(証券会社)に対する直近のコンプライアンスにかかる2021年の検査結果の概要を示すとともに、コンプライアンス義務を果たす上で役立つ情報を提供するものとされる。

報告書の中で筆者が注目したのは、2020年6月から施行されたSEC(証券取引委員会)規則であるRegulation Best Interest(Reg BI)(※2)の検査結果である。Reg BIは、ブローカー・ディーラーが個人顧客に証券取引等を推奨する際に、顧客の最善の利益のために行動することを義務付ける規則であり、施行後初めて同規則の遵守状況の検査が実施された。

Reg BIでは、ブローカー・ディーラーが顧客の最善の利益のために行動したとされるためには、投資推奨の際に開示義務、注意義務、利益相反回避義務、コンプライアンス義務の4つの義務の遵守が求められる。しかしながら、同報告書には、「特定の顧客の投資プロファイルおよびその推奨に関する潜在的リスク、報酬、コストを考慮した場合、その顧客にとって最善の利益にならない推奨を行った」、「顧客の投資プロファイルに照らして過剰な一連の取引を推奨し、ブローカー・ディーラーの利益を顧客の利益よりも優先させた」(注意義務の不履行)、「利益相反を特定していない、あるいは特定していても適切に対処していない」(利益相反回避義務の不履行)、「推奨により受け取る手数料など情報開示が不十分」といった指摘が並び、一部のブローカー・ディーラーが規則を遵守できていないことが明らかになった。

こうした検査結果を踏まえて、FINRAは同報告書で、Reg BIを遵守するための「効果的な実践方法」として、各証券会社のビジネスに合わせた利益相反マトリクスの策定により利益相反を特定することや、営業員による投資推奨が注意義務の要件を満たしているかどうかにつき、証券会社のコンプライアンス部門が毎月確認するといった新しい監視プロセスの導入など、具体的な方法を提示している。

Reg BIの施行から1年半しか経ていないこともあり、一部の証券会社にとっては対応の途上であるとともに、FINRAにとっても、これまで様子見期間であることがうかがえる。ただし、今後はFINRAが報告書を公表したにもかかわらず、なお規制を遵守できていない状況が続く会社に対しては、検査の強化やSECによる執行が実施されることになるだろう。FINRAは、検査を継続し実務の追加情報を収集する際に、さらなる調査結果を共有するとしている。今後、証券会社による顧客の最善の利益を最優先する推奨が浸透するのかを注視する必要があるだろう。

(※1)2022 Report on FINRA’s Examination and Risk Monitoring Program

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬