地に足の着いた“メタ世界”の実現を望む

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2022年02月03日

宇宙空間、仮想空間をテーマとした映画で繰り広げられたサイエンスフィクションの世界が現実になりつつあるとの内容の記事・特集が、昨今メディアで多く取り上げられている。これは、グリーン化、デジタル化のグローバルな社会・経済の変革の、コロナ禍も加わった“潮流”の中で、現在の居住環境である「現実世界」後の次の世界は何かが本格的に問われていることが背景にあると言えよう。実際、メタバース(※1)の「メタ」は哲学の「形而上学」=“metaphysics”が由来と言われ、さらに、遡れば、「自然学書の次の書」のギリシャ語である“ta meta ta physika”のmeta(=後に)が語源とされている。この語源の通り、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が同社を「Meta」という社名に変更したことに加え、マイクロソフトが大手のゲーム企業であるアクティビジョンを買収するなど“後の世界(=メタ世界)”と期待される仮想空間での主導権を握ることを目指している。さらにスペースXのイーロン・マスク氏が民間ロケットの開発によって“メタ世界”の候補である宇宙空間での資源開発、観光等のビジネスの開拓を先導している。まさに現実世界の“メタ世界”の覇権争いがグローバル企業によって繰り広げられていると言えよう。

上記の2つの空間は、熱狂的ないわゆる“ファン”層だけではなく、世界中の多くの人々を引き付ける魅力的な空間となる必要がある。「空間的な魅力」という点では、宇宙空間は、体験するには訓練等の長期に亘る準備と数十億と言われている膨大な費用が必要であり、その割には宇宙ステーションの居住環境は地上と比較して居心地が優れているとは言えず、「空間的な魅力」は低いと言えよう。ただし、地球の環境負荷を低くするようなエネルギーの開拓、観光等のビジネスを展開する上での「空間的な魅力」は高いのではないか。これに反し仮想空間はAR(Augmented Reality=拡張された現実)またはVR(Virtual Reality=仮想現実)を実現するヘッドセット等のシステム一式を装着すれば一瞬で体験できるため、「空間的な魅力」は高い。現状では、ARとVRシステムが重く、解像度も粗く、人間の五感の全部を満たさないという課題を抱えている。

その一方、仮想空間のビジネス面での「空間的な魅力」は高まっている。例えば、「The Sandbox」に代表される「ブロックチェーンゲーム」(ブロックチェーンの技術を活用したデジタルゲーム)では、取得したアイテムやキャラクターあるいはそれを生み出す場所(≒不動産)が、NFT(非代替性のデジタルトークン)によって値付けされ、電子市場などを経由することで、自由に売買することができる仮想空間が構築されている。デジタルコンテンツの保護が二次流通でも維持できることから、情報財に適正な金銭的対価を消費者に求めることができ、経済成長に結びつく可能性がある。

他方、仮想世界への憧憬あるいは傾注は、現実世界での諸々の不合理・不都合なことに対する現実回避主義的思考が根本にあることも否定できない。仮想世界と現実世界は表裏一体であり、現実世界の社会・経済の構造が将来にわたり改善され続けなければ、仮想世界の未来も明るくはならない。現実世界を超越する“メタ世界”ではなく、現実世界を正しい方向に導く地に足の着いた持続可能な“メタ世界”の実現を切に望む。

(※1)「メタ(Meta)」と「ユニパース(Universe)」との造語。一般的には、SNS等のオンライン上で3次元空間のコンピュータグラフィックス(Three Dimensional Computer Graphics ;3DCG)により構築された仮想空間を意味する。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢