統計不正で気になる統計担当者の仕事ぶりの実態

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2022年02月02日

2021年の年の瀬、国土交通省が所管する「建設工事受注動態統計調査」で数値を書き換えて二重計上していたという不正問題が突如浮上した。この調査は、「建設工事受注動態統計」を作成するために実施しているものであり、同統計は、公的統計の中でも特に重要なものと位置づけられる基幹統計の「建設工事統計」の一部を構成している。国の基幹統計の結果を歪めることになった今回の統計不正は、公的統計全体の信頼性を大きく揺るがす深刻な問題だ。

近年、公的統計は、統計不正という厳しい逆風にさらされている。まだ記憶に新しいのが、2018年末に発覚した厚生労働省の「毎月勤労統計」を巡る不正問題であり、これは大きな社会的・政治的問題へと発展した。政府は、総務省統計委員会の下で基幹統計の一斉点検を実施するなど公的統計の信頼回復を図ってきたが、今回の国土交通省の不正問題により、その努力はほとんど水泡に帰してしまった格好だ。

これまで長らく様々な立場で公的統計に関わってきた筆者にとって、統計不正の問題というのは、とても関心の高いテーマでもある。振り返ってみると、統計作成機関のリサーチ・スタッフ、統計調査員、統計家(研究者や実務家)、官庁・民間エコノミスト、経済統計講座の講師を経験しており、こうしたキャリアは結構レアかもしれない。

今回の国土交通省の不正発覚以降、すでに多くの識者が統計不正の問題について活発な議論を行っている。ただ、せっかくの機会なので、本コラムでは、過去の経験をもとにニッチな意見を2つほど取り上げたい。

第一に、統計不正により統計担当者の「いい加減な仕事ぶり」が問題視されているが、それは統計知識が不十分もしくは職業倫理観の低い限られた職員の問題にすぎないという点だ。筆者の知る限り、統計担当者の大多数は、むしろ全く逆のタイプという印象が強い。真面目で数字に細かく、地味な業務も着々と進めていく。そうした仕事ぶりについては、筆者も学ぶべき点が大いにあると今でも考えている。現在、統計不正の影響で、国民が統計担当者全体の仕事ぶりに厳しい目を向けているが、実態を見てきた人間として、こうした状況は非常に残念なことだと思う。

第二に、今後の最大の焦点は、公的統計の信頼を回復するための厳格な再発防止策となるが、その導入は、長期的にみると、統計担当者にとって悪い面より良い面の方が大きいと考えている。短期的には、再発防止策への対応で業務負担が増えることも想定されるが、統計担当者の大多数は、そうした業務も着々とこなしていくタイプであり、あまり問題とならないだろう。他方、再発防止策の効果で一部の職員による統計不正がなくなれば、それは統計担当者の汚名返上につながる。その意味で、厳格な再発防止策は、統計不正を排除し、統計担当者への批判を防ぐ「守護神」となる。

それでは、公的統計の信頼回復や統計担当者の汚名返上につながる厳格な再発防止策の導入に対して、抵抗勢力はいるのだろうか。あまり想像できないが、もしいるとしたら、それは統計知識が不十分もしくは職業倫理観の低い人たちかもしれない。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智