親子上場等に関する上場制度整備の議論

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2025年08月13日

上場企業同士の経営統合、親子上場の解消、MBO(マネジメント・バイアウト)を含めた非公開化のニュースが連日株式市場を駆け巡っている。一方で、宇宙関連事業など今までになかった企業の新規上場もあり、市場としての新陳代謝が活性化し始めているように感じる。市場メカニズムが健全に機能し、伸びる企業に成長資金が投じられるようになることは日本経済の成長に資する。

金融庁が6月に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」は、こうした流れを継続させる施策の一つである。企業の現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化、政策保有株式を売らせない圧力に対する対応に加え、東京証券取引所(東証)による親子上場等への対応も挙げられている。

東証は親子上場等を禁止していないが、少数株主保護や企業価値向上に向けた経営資源の配分の観点から対応策を打ち出している。最近だと、企業の少数株主保護やグループ経営に関する開示要請や、MBOや支配株主による完全子会社化時の特別委員会の更なる機能の発揮や情報開示の充実が該当する。今後は、上場子会社や持分法適用関連会社の独立社外取締役の独立性確保等の上場制度の整備にも手が付けられていく見込みである。

整備の俎上にあるのは①独立性基準の追加・拡張、②上場制度上の独立社外取締役指定における少数株主の過半数の賛成の要求、③独立社外取締役の選任における少数株主の賛否割合の開示である。例えば、一般株主保護のため、東証は上場会社に対して独立役員を1名以上確保しなければならないとしているが、①は最低限確保されるべき独立性の形式要件の追加・拡張が検討されている。現在の独立性基準では、独立役員は支配株主との独立性の観点から支配株主との雇用関係がないことが要求されているが、取引関係・経済関係がないことも追加する内容である。また、支配株主との関係性だけではなく、支配的な株主との関係性にも基準の拡張が検討されている。なお、支配的な株主とは、過半数には至らないものの大きな割合の議決権を保有することなどにより実質的な支配力を有する株主である。

もっとも、これらの制度改定はすぐに行えるような簡単なものではない。適切な独立社外取締役の選任に悩む上場企業があるようで、同じ人物による独立社外取締役の多重兼務も見られる状況である。制度改定はこの状況に拍車をかける可能性も否定できない。実務への影響を踏まえつつ、制度改定した時の少数株主保護や企業価値向上に向けた有効性を議論していく必要があろう。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史