調査員・統計家・エコノミストからみた国勢調査
2010年11月01日
ちょうど1ヵ月前の10月1日を調査期日として、「平成22年国勢調査」が実施された。
国勢調査とは、5年ごとに実施される人口センサス(全数調査)のことで、「国勢」は「国の情勢」を意味する。この調査は、平成21年に統計法が改正されるまで「指定統計第1号」であったことから推し量れるように、最も重要な統計の1つである。改正により指定番号制は廃止されたが、新統計法においても、特に重要性の高い「基幹統計調査」と位置付けられた。
近年は、プライバシー意識の高まりや回答の手間などから、協力を拒む世帯が増加しており、円滑な調査の実施が難しくなっている。数百億円規模に達する調査費用への世論の批判も多い。調査を受ける立場からは、国勢調査は面倒な作業だというのが本音であろう。私も全く同感である。ただ、調査員、統計家、エコノミストの立場からは、少し異なった見方もできるので、紹介したい。
国勢調査の調査員を実際に経験した立場からは、調査票の回収は予想以上に大変だったというのが、正直な感想である。回収を約束した日時に不在であったため再訪問・再々訪問・再々々訪問を余儀なくされたり、平然と居留守を使われたり、時には怒声を浴びる等、様々な世帯に遭遇した。回収ノルマがないため、手を抜けば多少は楽もできたのだが、真面目に回収率を上げるには苦労も多い。
統計家の立場からは、統計の質に関して、非標本誤差(標本抽出に伴う誤差以外のもの)の問題が今後の課題だろう。具体的には、非協力世帯の増加による「無回答誤差」、原則封入提出となったことで調査員による記入チェックができなくなったことによる「誤記入」や「記入漏れ」の拡大である。これらの問題は、全数調査において避けて通れないものであるが、統計の質の低下が進むようであれば、調査設計の再構築が必要である。
エコノミストの立場からは、日本の人口問題や潜在成長率等を考える上で、非常に有用な統計であるものの、使い勝手に難があるという印象を持っている。また、少子高齢化で世界のトップをひた走る我が国の人口統計は、「日本の前例」として、海外の研究者の潜在需要も大きい。そのため、国内外の利用者にとっては、利便性の改善が期待される。
立つ場所によって見え方が変わる国勢調査であるが、「人」から「国」がなる以上、その情報基盤としての重要性は今後も変わらないと考える。
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