大型書店がなくなる!

老眼で縮む書店市場にはネット・図書館ハイブリッド戦略で対抗せよ

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2022年01月26日

仙台に住んでいたころに愛用していたジュンク堂書店(仙台TR店)が昨年閉店した。

調査機関によってずれはあるが書店数は90年前後を境に一貫して減少傾向を辿っている。もっとも売場面積は10年程前まで拡大していた。書店の大型化で街の本屋が淘汰された時代だった。1,000坪を超える大型書店が増えたのは90年代後半以降である。ジュンク堂書店が仙台に進出したのは97年。その後10年内に中心部の老舗書店が次々に姿を消した。協同書店、高山書店、アイエ書店そして宝文堂。高校時代に通った思い出深い書店だ。

売場面積が減少に転じた2010年代以降は市場自体が縮小している点でそれまでとは意味が異なる。コンビニや図書館の増加も一服しており、スマホの普及が影響しているのは明らかだ。本や雑誌ではなくウェブサイトを見るようになった。本を買うにしてもネット通販を使うようになった。コミック中心だが電子書籍も拡大している。いずれにせよ書店を利用する機会は減った。

自分に置き換えて考えてみる。仙台から東京へ住む場所は変わっても行きつけの書店があった。週2~3回は足を運び、特に日曜夕方の気鬱を立ち読みで晴らすのが重要なルーチンだった。それが10年ほど前からぱったり足が遠のいた。書籍代に年に数10万円使う習慣は変わってないにもかかわらず。

なぜか。ひとつはネット書店で買うようになったからだ。タイトルが決まっていれば大型書店で探すよりネット書店で検索するのが確実だ。筆者は最近『自治体の財政診断入門』(※1)を上梓した。大型書店に平積みされているが確実に手に入るのはネット書店である。会員になれば配送料無料で翌日配達なのもありがたい。そのうえ本を増やせない。書斎の壁面は既に本で埋め尽くされており耐震上問題がある。よって今はもっぱら電子書籍である。電子化されていないものだけやむなく紙の本を取り寄せる。

本との新たな出会いを求めて訪れるのは図書館になった。蔵書は大型書店を上回り、絶版本も置いてある。専門誌の品揃えは広く、筆者が「自治体財政 改善のヒント」を連載している『日経グローカル』誌もある。これはと思った本をみつけてはネット書店を検索して注文、いやダウンロードする。仮に同じことを新刊書店でやられたらたまらない。本だけ汚れて売り上げにならないからだ。読み逃げと言いたくなる気持ちもわかる。

大型書店の閉店は仙台だけでなく他の都市でも見られる。コロナ禍にからめた報道が目に付くが、この傾向は感染が収束しても変わらないどころか加速するだろう。次に押し寄せるのは電子書籍化の流れである。侮れないのが団塊ジュニア世代の老眼だ。文庫本はいうまでもなく、普通の本の活字さえも裸眼で追うのがおっくうになる。「紙のぬくもりが良い」といっても老眼鏡やルーペなしで文字を拡大できる便利さにはかなわない。

とはいえ大型書店がなくなるのは寂しい。ついてはネットとリアル、書店と図書館の2つのハイブリッド戦略を提言したい。店頭の本は試し読み用と割り切り、購入はインハウスのネット宅配、あるいは電子版をダウンロードするビジネスモデルとする。ネット書店と提携のうえ、お客の申告ベースにはなるが試し読みの対価をネット書店に請求する手もある。要は立ち読みされて売上がネット書店に流出する機会損失を減らすため、ひいては書店文化の存続のためだ。購入に至る発見・探索・比較のプロセスに着眼し、課金する。

もうひとつは図書館と書店のハイブリッドだ。図書館と書店を並置するケースはあるが明確に区分されている。これを戦略的に融合させるのだ。本や雑誌を探したり読んだりするのは図書館。買いたくなったら書店で新品を買う、あるいはネットで注文するか電子版をダウンロードする。一定期間を経過した新刊本は図書館で引き受けるのがよい。かつてのライバルが手を組む新しい公民連携を検討してほしい。

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鈴木 文彦
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 鈴木 文彦