中国:過去最大の上昇率ではなかった卸売物価。求められる恣意性の排除

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2021年12月16日

中国の経済統計を扱っていると、時々不思議なことが起こる。主要経済指標については、毎月発表日にデータベースからダウンロードし、定型のチャートを作成するのだが、10月分は卸売物価のチャートだけが左にクシャっと寄ってしまった。過去の統計が数年分「新たに」発表され、直近数年分のデータが、グラフの範囲指定から外れてしまったのである。

2021年10月の工業製品出荷価格指数(PPI)は、前年同月比+13.5%(以下、伸び率は前年同月比)となり、本来であれば、統計が遡れる1996年10月以来最も高い上昇率となるはずであった。しかし、1993年1月以降の統計が「新たに」発表された(少なくとも広く知られてはいなかった)ことにより、10月の+13.5%は1995年7月以来の高水準に格下げとなり、過去最高の座は1993年5月の+26.0%に明け渡すことになった。

今回の顛末をどうみればよいのか。これまで知り得なかった過去のデータが発表されたのだから、ポジティブに評価すべきなのだろうか。もちろん、答えは「否」である。1993年1月以降の統計が、なぜこのタイミングで発表されたのか。習近平政権、あるいは監督官庁(商務部)が、昔と比べれば大したことはない、と問題を小さく見せようとしているのだろうか。折角のデータ公表も、恣意的であればかえって信頼を失いかねない。

実は、この恣意性の排除こそが、統計の問題に限らず、今後中国に求められる重要なポイントだと考えている。例えば、2020年秋以降、中国では新興企業への規制強化の嵐が吹き荒れた。これは企業の経営の自由度を抑え発展の勢いを失わせる一方で、これまで野放図な発展を遂げてきた企業がルールに則った健全な経営に転換するのを促す面もある。しかし、当局者がルールを恣意的に運用してしまっては、公平性を著しく欠くことになる。

2021年12月8日~10日に開催された中央経済工作会議では、経済政策運営の7つの重点が発表された(※1)。2つ目の「企業の活力を持続的に引き出すマクロ政策」では、「市場主体(企業)の自信を高め、公正な競争政策の実施を深く推進し、独占禁止と不正競争防止を強化し、公正な監督管理と公平な競争を保障する」とされた。繰り返しとなるが、筆者は、当局者が恣意性を排除して、是々非々でルールを厳正に適用することが極めて重要だと考えている。

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齋藤 尚登
執筆者紹介

経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登