米国で人手不足が長期化し得るわけ

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2021年12月03日

米国はホリデーシーズン真っただ中だが、ブラックフライデーやサイバーマンデーといった大安売りでも値引き幅は小さく感じられ、消費者としてはやや残念な気持ちになった。しかし、値引きされるだけまだましである。街中は値上げであふれている。顕著な例を挙げれば、Amazon 傘下のオーガニックスーパーであるWhole Foods Marketの配達費は、昨年同時期はチップ込みで5ドル程度であったが、足下では時間帯によって20ドル程度となっている。

価格上昇の要因となっている背景は、サプライチェーンの混乱だ。半導体不足、悪天候、そして新型コロナウイルスの感染拡大など様々な要素が絡まりあっている。複数の要因の中でも、ニューヨークで生活をしていて最も強く感じる要素は人手不足だ。ウィンドウショッピングをすれば、最も目に付く広告は”Now Hiring(人材募集中)”である。馴染みのレストランに行けば、普段は接客をしないマネジメント層が注文を取っていることもある。話を聞けば、求人を出しても応募がないので、自ら接客せざるを得ないとのことだ。

企業にとっては猫の手も借りたいところだが、実際に人の手以外を活用することはできる。一部の大手レストランチェーンは、店舗を小型化し、会計を自動化することで、必要となる従業員数を減らす取り組みを進めている。つまり、デジタライゼーションによる生産性の向上だ。他方で、こうした取り組みは資金が豊富な大手企業が中心であり、中小企業や労働集約型の産業にとっては賃金水準を引き上げてでも、人を雇わざるを得ない。

そもそも人手不足の背景としては、感染を避けるために高齢層が退職したことや、子供の感染や学級閉鎖によって子育て世代の女性が職場復帰しにくいことが挙げられる。2021年10月の非労働力人口をコロナ禍前(2020年2月)と比べて見ると450万人程度増加している。そのうち、65歳以上が300万人強、25-44歳の女性が80万人弱増加している。新型コロナウイルスの感染状況の改善によって子育て世代の女性の職場復帰は見込めるかもしれないが、高齢層はどうだろうか。米国では、原則として退職年齢を定められることはないものの、人口のボリューム層であるベビーブーマー(1946-64年生まれ)の大半が早晩退職していくことに変わりはない。新型コロナウイルスはベビーブーマーの退職を加速させただけともいえるわけである。

新型コロナウイルスの感染拡大で高齢層の退職が想定よりも急激かつ大規模に発生したことは企業にとって不運であったが、国内で人手が賄えなければ、国外に頼ることも可能である。米国の強みは、人手など国内で不足するリソースを移民といった国外のリソースで補えるダイナミズムを有していること「であった」。ここで過去形にしたのは、当面は移民の増加が見込みにくいからだ。そもそもトランプ前政権が移民抑制策を取ってきたことで、外国籍の米国居住者は過去(2010-16年)のトレンドを下回り始めた(図表)。バイデン政権成立以来、こうした移民抑制策は解除されてきたが、新型コロナウイルスの感染状況が抜本的に改善しない中で、クロスボーダーでの人の行き来は依然低迷している。足下では、新たな変異種であるオミクロン株の登場により、入国規制が再び強化され始めた。新型コロナウイルス感染の収束が見えなければ、国外移住という大きな決断はなおさらしにくい。移民増も期待できず、人手不足は長期化の様相を呈してきた。配達費がさらに上がったらどうしようか。お財布とにらめっこする生活が当面は続くことを覚悟しなければならないかもしれない。

外国籍の米国居住者

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐