金融機関の中途半端なアライアンスを回避するためには

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2021年11月04日

我が国の金融業界における業務提携、資本提携というアライアンスは、これまで経営基盤の強化と顧客基盤の拡大という経営課題の解決に向けて戦略的に結ばれてきたと考えられる。それに加えて、昨今では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)に効果的かつ効率的に取り組むためのアライアンスが増えている。ただし、DXとGXのような新たなビジネスモデルの変革に対応しているかといえば、依然十分とはいえない。例えば、先日メディアで報道された約20年前の経営統合で設立されたメガバンクでは、DXへの対応の中での基幹系システムの再構築において、組織的な取り組み面で綻びが生じたことで、経営基盤の脆弱面が露呈し、顧客の信頼を失いかねないという状況に陥っている。長期にわたって経営統合の効果を生み出す努力を組織的にしてきても、経営統合前の旧態依然の企業文化および慣習が残っていることで、一体であるはずの組織間の分断が表面化し、その努力が水泡に帰す場合がある。

上記の事例のような状況を回避するためには、金融機関はアライアンスに際する目的の通りに組織の変革(=トランスフォーメーション)を実行に移されているか常に組織的にチェックする必要がある。DX、GXでは“デジタル”と“グリーン”に力点が置かれがちであるが、“トランスフォーメーション”による“組織の固まり方”により注視する必要がある。目的通りに組織を固めるためには、“デジタル”化あるいは“グリーン”化による既存のビジネスモデルの変革とは何かを組織として徹底的に理解し、有効なトランスフォーメーションを生み出していくことが重要であろう。この変革の“すがた”の共有あるいは共有の仕方が中途半端なアライアンスは、中途半端なトランスフォーメーションに陥りがちであり、その結果、当初の意図した“すがた”とは異なる組織が誕生する可能性が高まる。

これを回避するためには、表面的な将来の“すがた”の共有ではなく、経営者を中心に組織の末端まで統合前のマインドをリセットした上での共有が必要であろう。ただし、例えば金融庁が金融機関に求めている顧客本位の業務運営を目指すための業務改革において、慣れない新たな業務に取り組むようなマインドリセットを現場に強要すればするほど、逆にそれを回避して慣れた既存の業務を守ろうとするマインドが強くなり、有効な改革が難しくなる。これがボトルネックとなって、採用できる戦略あるいはビジネスモデルの選択肢が狭められ、将来的に競争力が劣化していく可能性が高まっていくという悪循環に陥る。大きな変革を継続的に成し遂げるためには、日常の業務への取り組みの中でも恒常的に建設的な変化を求める柔軟な組織づくりと人材育成が欠かせないであろう。

現状における金融機関のアライアンスの増加は、アライアンスという戦略を多数が選択している現象が、アライアンスを選択する者を更に増大させるという“バンドワゴン効果”が働いている可能性がある。有効なアライアンスが可能かどうかは、上記のような有効な“トランスフォーメーション”が実行に移せる金融機関の能力に大きく依存しているといえるのではないか。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢