ゾンビ企業論再び?

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2021年03月01日

  • 坂口 純也

経済に大きなショックが加わった際は、政府による大規模な企業支援策が打たれるのが一般的である。足元の新型コロナ禍はもちろんのこと、過去を遡れば90年代後半の(日本の)金融危機やリーマン・ショックに際しても今般のような信用保証付き融資や返済猶予(の要請)などの資金繰り支援策が打たれてきた。

こうした政策の難しい点として、施策実行のスピードや規模・範囲の決定に加えて、いつどのように引き揚げるかを判断するのが極めて難しいことが挙げられる。あまりに早く政策を引き揚げてしまうと、景気の回復を待てば再建できた企業まで倒産してしまう懸念がある。他方で、長期にわたって維持されれば、支援策に依存した企業環境が形成されて、いわゆるゾンビ企業がはびこるリスクもしばしば指摘される。ゾンビ企業の分析上の定義はさまざまあるが、一般には「実質的に破綻していたり再建の見込みが乏しかったりするのにもかかわらず銀行や政府による支援を受けることで事業を継続している企業」と定義される。

ゾンビ企業の発生が好ましくないこととされているのは、ゾンビ企業の存在が資源配分の非効率性を生み出すからである。例えばゾンビ企業研究の嚆矢とされるCaballero et al (2008)によると、同一産業内にゾンビ企業が多く存在するほど、非ゾンビ企業の設備投資や雇用が縮小し、生産性も低下するとしている。また、Banerjee and Hofman (2020)によるとゾンビ企業そのものの特徴として、設備や研究開発に対する支出が少ないなど、総じて活力がない傾向にあり、ゾンビ企業の存在が経済全体の生産性の向上を停滞させるとしている。

発生したゾンビ企業への対処としては、まずどのゾンビ企業を葬るか/治療するかを判断することが必要である。理屈の上では、当該企業の清算価値と事業価値の大小を比較して判断することになる。清算価値>事業価値であればその企業を清算するのが社会的に望ましい。もちろん、清算する際には雇用や関連企業への影響を抑えるような対応が必要だろう。

事業価値>清算価値であれば、その企業をゾンビ状態から脱却させるのが社会的に望ましい。ゾンビ状態脱却の消極的な方法としては景気や事業環境の回復を待つことが考えられる。これは、平時においてはともすれば単なる問題の先送りでしかなくなるものの、足元のコロナ禍のような一時的なショックの事後対応としては有効な策の一つであろう。より積極的な方法として、大胆な債権放棄によって債務負担を軽くすることがゾンビ状態からの脱却に有効とする分析がある(中村・福田(2008))。ただし、銀行による金融支援の際の問題としては、銀行が再建計画としてリストラやコストカットといった後ろ向きの改革を求めがちなことが挙げられる。これは負債の出し手である銀行にとっては自然な行動であり、責められるものではない。とはいえ、こうした方法ではゾンビ企業というラベリングは外れても(例えば自力での債務の返済が可能になるなど)、企業の実態は活力のない状態のままということになりかねない。これでは経済全体の成長もおぼつかない。

とすれば求められるのは何か。端的にはゾンビ企業のアップサイドを伸長させた上でゾンビ脱却を図るマネーの出し手であろう。具体的に挙げられる主体としては例えばPEファンドが挙げられる。鷲見(2020)は、PEファンドによるバイアウトによって投資先の売上高が平均的に拡大することを紹介した上で、国内の事例の多くで従業員の削減が行われていないことを報告している。雇用への悪影響を抑えつつトップラインを拡大する形のバリューアップは、ゾンビ状態脱却の形として非常に望ましいといえよう。このほかには銀行の投資専門子会社にも期待を寄せられる。彼らは銀行というもともとの利害関係者であることからスムーズに案件を発掘・実行できるし、このところ規制の緩和が図られ投資の自由度が増そうとしている点がポジティブである(※1)。ただし、投資の実行において銀行の目線をそのまま持ち込んでは元の木阿弥で、いかに融資の目から投資の目に転換できるかが鍵となる(鈴木(2021))。

足元では、社会はワクチンをもって感染症に対処しているわけだが、今後増殖するかもしれないゾンビ企業については、ゾンビ治療のためのマネーと人材の準備が怠れない。

参考文献
Banerjee, Ryan and Hofman, Boris (2020) “Corporate zombies: Anatomy and life cycle”, BIS Working Papers, No 882, Bank for International Settlements, September 2020.
Caballero, Ricardo J, Hoshi Takeo, and Kasyap, Anil K. (2008) "Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan" American Economic Review, 98 (5): pp.1943-77.

中村純一・福田慎一 (2008) 「いわゆる『ゾンビ企業』はいかにして健全化したのか」, 『経済経営研究』, 28(1), 日本政策投資銀行設備投資研究所, 2008年3月
鷲見和昭 (2020) 「わが国におけるプライベート・エクイティ・ファンドの可能性—アイデアとコミットメントのあるファイナンスへの期待—」, BOJ Reports & Research Papers, 日本銀行, 2020年12月11日

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