コロナ禍において加速化する放送サービスの変化について
2021年02月24日
1年ほど前の本コラムで、「5G時代の幕開けで放送サービスに変化が訪れるのか」(※1)を執筆した時点では、コロナウィルスが世界的に猛威を奮い、人々の生活を一変させる事態になるとは想定されなかった。
そこでは、2020年に放送と通信の融合が本格的に動き出す時代が到来し、放送と通信の融合の代表的なサービスである動画配信が、5Gのサービス提供開始によって放送との垣根をますます低くし、視聴スタイルも変化していくと記した。
しかし、コロナ禍によって、こうした動きが加速し、2、3年後に到来すると予測していたものが一気に現実となるほどの大きな流れになった。
その結果、動画配信事業者は契約者数を伸ばすことになったが、電通が公表する「日本の広告費」において、2019年にインターネット広告費に初めて追い越されたテレビ広告費が、2020年は現時点で未発表ながらもコロナの影響によって大きく落ち込んでおり、地上波放送局(民放)の経営状態は厳しい状況に直面している。
そうした中、在京キー局は有料の動画配信サービスを新たな収益源にすべく、各社各様の形態で積極的に推進している。一方で、2020年後半から、これと異なる新たな動きも起きている。
日本テレビが系列局と連携し、10月〜12月までの期間限定で民放公式テレビポータル「TVer」のプラットフォームを活用し、19時〜24時の時間帯でテレビ放送との同時配信を試行した。また、有料衛星放送のWOWOWは、これまで放送契約者に限定して動画配信サービスを提供していたが、最近になり、動画配信のみでも契約を可能にするサービスを開始している。
動画配信サービスは、「anytime , anywhere(いつでもどこでも)」を実現したが、それに留まらず、家庭内におけるチューナーやサーバーとしての役割も果たせる形に進化している。また、動画配信の存在感が高まることで、SNSと同様に、エンターテインメント業界におけるメガヒットを生み出す重要な要素になっている。
例えば、映画の国内興行収入記録を塗り替えた「鬼滅の刃」は、TVアニメの動画配信によって火がつき、その流れを地上波放送によってマス層に訴求できたことが大ヒットにつながった。さらに、ガールズグループの「NiziU」は、動画配信と地上波放送、SNSとの連動によるメディアミックスによって人気に拍車がかかったといえる。
動画配信サービスの登場が、従来の放送サービスの外で優良なコンテンツの視聴を可能にした原動力であると評価できるものの、当面は課題も山積されている。ひとつは、現時点では動画配信事業者が乱立しており、視聴したいコンテンツの分散が避けられないことである。もうひとつは、動画配信の更なる隆盛や地上波放送との同時配信が進展した際に、現行の地上波放送ネットワークが相対的に劣後し、テレビ広告費の更なる低迷を引き起こす懸念である。
コロナ禍の出口が見えない中、我々の生活を真の意味で豊かにする健全な放送サービスのあり方について、本格的検討が必要な時期にきている。
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- 執筆者紹介
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コーポレート・アドバイザリー部
主任コンサルタント 遠藤 昌秀
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