2020年12月08日
地域銀行が長引く低金利や人口減少といった厳しい経営環境下に置かれている中、菅首相(発言当時は官房長官)の「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」「再編も一つの選択肢になる」という発言(※1)を受け、メディアでは地域銀行の経営統合の可能性が盛んに報じられている。
11月には、日本銀行が経営統合等を行う地域銀行の日銀当座預金に金利を0.1%上乗せする制度が創設され、同一県内の地域銀行同士の経営統合を実施しやすくする独禁法特例法が施行されるなど、相次いで地域銀行の経営統合を後押しする制度がスタートした。
これらの措置により実際に経営統合に踏み切る地域銀行も出てくる可能性はある。しかし、経営統合は非常に負担の大きな作業で時間もかかる。経営統合を通じた経営基盤の強化を実現するためには、経営体力のある地域銀行と経営統合に合意する必要があるが、コロナ禍で不確実性が増している状況では、経営体力のある地域銀行も体力を温存しようとするインセンティブが強いため難しい可能性がある。
一方、経営状況の悪化した地域銀行が経営基盤を強化する方法には、公的資金の受け入れもある。コロナ禍を受けて今年6月の法改正で導入され、8月に施行された特例が適用される場合、公的資金注入の申請について金融機関は経営責任が問われないこととされた。
経営状況の悪化した場合に、経営統合を行うか、公的資金を受け入れるかは各行の経営判断であるし、各行の経営状況や置かれた環境も異なることから一概に言うことはできない。ただ、いずれの方法を採るにせよ、地域銀行は経営統合や公的資金注入を通じた経営基盤の強化自体を目的と考えるべきではなく、それを通じて、コロナ禍が疲弊に拍車をかけた地域経済の再生・活性化に取り組むことを目指すべきだろう。
これは、地域銀行の存在意義は地域経済への貢献にあるという抽象的理念だけからいっているのではなく、地域経済の再生・活性化が、地域銀行が将来にわたって健全性を維持していくうえで不可欠だからである。コロナ禍を受け、地域銀行は中小企業の資金繰りを支援した結果、中小企業向け貸出が増加している。将来的にこれらの貸出が不良債権化すれば地域銀行の経営を圧迫する懸念があるため、地域銀行は中小企業の経営改善、再生の支援に取り組むことが求められる。
ただ、地域銀行の取組みによっても中小企業の再生が十分進まず、貸出が不良債権化する可能性がある。そのような場合に、仮に政府が、金融システムへの信頼を回復するために、かつて大手銀行に求めたような不良債権処理を地域銀行に求めれば、貸出先の中小企業の破綻により地域経済をさらに疲弊させる懸念がある。現場には、公的機関による地域銀行の保有債権の買い取りを求める声があることなども踏まえて、政府には抜本的な対策が求められるだろう。
(※1)2020年9月3日付日本経済新聞電子版「『地方の銀行多すぎる』 菅氏の真意」
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金融調査部
主任研究員 金本 悠希