コロナ禍の株主総会における想定質問

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2020年06月04日

今年の株主総会は、これまでにない異例のものとなりそうだ。3月決算の上場会社で株主総会の権利行使基準日を4月以降に変更し、総会を7月以降とすることをすでに60社ほどが公表している。6月にいったん開催し、後日の継続会で決算報告等を行う会社も30社ほどある。招集通知には、一般株主の会場への入場の事前登録制や入場制限、報告事項の簡略化や質疑時間の短縮を予定していることを明記する会社もある。いずれも、新型コロナウイルスの影響による。

新型コロナウイルスが会社に与える影響は、株主からの質問にも表れるだろう。今後、状況がどう変化するか、予想は難しいが、株主総会で経営との関わりを問われた場合の答え方は考えておくべきだ。もっとも、株主総会での受け答えとはいえ、インサイダー情報となる場合には、また別な慎重さが求められることは言うまでもない。以下は、株主から問われると予想される論点である。

(事業リスク)
この3月末決算から有価証券報告書の「事業等のリスク」に関する記載が大幅に拡充される。リスク顕在化の可能性の程度、時期、経営成績への影響、対応策が記載事項として例示されている。株主にとっては、投資先の会社がコロナ禍をどのように乗り切ろうとしているか、ポストコロナの経営はどのような見通しか、大きな関心事となる。

(経営者報酬)
業績連動報酬やストック・オプションは、業績や株価が一定水準以上でなければ、ほとんど価値がなくなる。コロナ禍でそのような状況に陥る企業の経営者にとって、適切なインセンティブを回復するために、報酬体系が見直される可能性がある。一方で、株主は株価下落と減配等で不満を抱えているかもしれず、そうしたところに新たな業績連動報酬を提案すれば反発を受ける恐れもあろう。

(M&A等中長期的な経営判断)
コロナ禍以前の環境で決定したM&Aや設備投資は、現在もなお妥当な判断であるか、説明が期待される。M&Aでは、ディールの中止や買収価格の見直しが可能か、設備投資では前提となった需要予測などが現在も適切か、などが問われよう。株価へ影響が生じ得る大型の案件であれば、株主の関心も高いはずだ。

(株主還元策)
業績の悪化により、財務の健全性が損なわれる恐れがあるため、配当や自社株買いを一時的にでも自粛すべきという見解がある。欧州の銀行には、そうした要請が中央銀行などからあり、実際に株主還元が大きく減少している。一方、日本の上場会社が平均的にそうした危機に直面しているかは疑問だ。自社の財務構造とコロナ禍の影響を整合的に株主に説明する準備が必要だ。

(ESG課題としてのコロナ禍対策)
ESG投資に積極的な機関投資家団体からは、今年は新型コロナウイルス対策が論点になるという意見が出されている。S(social)の分野の課題として、従業員の健康と安全、雇用の維持等が投資判断の要素となれば、そうした課題に各社がどのように取り組んでいるか、問われるだろう。リモートワークの推進度合いや、感染チェック体制、休業手当の方針など、これまでの総会では到底出てこなかった質問も想定すべきだ。

(コロナ禍対策が生み出すリスク)
従業員の健康と安全の維持のための取り組みが、新たなリスクとなる恐れもある。リモートワーク化により情報漏洩や盗難のリスクは高まるし、作業効率の維持ができるかも問題だ。店舗内のソーシャルディスタンスを確保する目的で、顧客の来店制限などをすれば、業績への影響が生じかねない。こうしたリスクも問われよう。

(株主総会運営方法)
前例の乏しい株主総会運営を多くの会社が行うことになるが、それが適切な運営方法だと、全ての株主が納得するわけでもない。例えば質疑時間を短縮するために質疑を打ち切れば、異議を唱える株主がいるかもしれない。
円滑に総会を運営し、無事に終了するためには、例年にも増して知恵と工夫を尽くす必要がありそうだ。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕