2020年06月02日
改正外為法が6月7日から本格適用される。今回の改正による株式市場への影響は限定的と予想される一方、企業と外国投資家の対話が当初考えられていた範囲よりも幅広く制約される懸念がある。
昨年11月の外為法改正により、外国投資家が、電力や通信など一定の指定業種を営む上場企業の1%以上の株式を取得する場合、原則として事前届出が義務付けられ、政府の審査の対象となる。
この改正については、当初、株式市場への影響が懸念されていたが、前回のコラム(3月に更新)で指摘した通り(※1)、そのような懸念はほぼ解消されたと筆者は考えている。
一方、この改正については、企業と外国投資家の対話が制約される懸念がある。
外国投資家は、所定の基準を守れば事前届出が免除される。その基準として、外国投資家自ら又はその密接関係者が役員に就任しない、指定業種に属する事業の譲渡・廃止を株主総会で提案しない、など定められている。
さらに、ソブリン・ウェルス・ファンド等が、指定業種の中でも特に安全保障上重要であるコア業種に投資する場合については、その事業に関して、重要な意思決定権限を有する委員会に参加しない、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めるような書面での提案を行わない、という追加の基準も定められている。
事前届出を行うことを嫌う外国投資家は、これらの基準で定められている行為を避け、企業と外国投資家の対話が制約される懸念がある。このような懸念は外為法改正案の議論当初から指摘されていたが、外国投資家が制約される行為は上記の基準で明確化されていたと言える。しかし、今年4月に公表された外為法の政省令で、別途、事前届出の免除を受ける条件が定められ、より広い範囲で企業と外国投資家の対話が制約される懸念が浮上した。
具体的には、事前届出を免除される条件として、「指定業種に係る事業の継続的かつ安定的な実施を困難にする行為を行うことを目的とする」投資でないことが設けられた。
この条件に違反するケースとして、仮に事前届出がなされても、審査で承認されないような場合が想定されている。政省令案のパブリックコメントへの財務省の回答を踏まえると、例えば、電力業等、インフラ事業を営む企業に対して、その事業を縮小せざるを得なくなるほどの巨額の増配提案をするために、相当程度の株式を取得する場合が該当すると解される。
上記の回答を踏まえても、なお、実際にどのような場合がこの条件に違反するかの「線引き」は明確ではない。そのため、外国投資家が「この条件に違反しない」と誤って判断し、事前届出を行わずに提案行為を行ったところ、実は条件違反に該当していた事態も想定される。そのような場合は、理論上、事前届出義務違反となり刑事罰の対象となり得る。
そのため、外国投資家には投資先の会社への提案行為を抑制するインセンティブが働く懸念がある。
加えて、事前届出免除を利用している外国投資家が、この条件に違反しないと考えられる提案行為を行った場合でも、投資先の会社が外国投資家に対して、「この条件に違反する」と主張して提案を取り下げるようプレッシャーをかける事態が生じるかも知れない。
このような事態が生じないように、上記の条件が想定している提案行為や対象となる事業の範囲等について明確化されることが望ましい。
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金融調査部
主任研究員 金本 悠希