過去最大級の損失が生じても、公的年金の未来を過度に悲観すべきではない

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2020年04月07日

新型コロナウイルスの感染拡大によって今後の世界経済が不安視される中、日経平均株価は2019年末から2020年3月末までに約2割下落し、世界の主要な株価指数も軒並み下落している。これを受け、公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2020年1-3月期に四半期ベースで過去最大の損失が生じた見通しと報じられている(※1)。GPIFの決算が公表されたら、改めてその損失がショッキングな数字として報道され、公的年金の未来を不安視する人が出たり、もしかすると、いずれ年金制度が破綻することを懸念したりする人が出てくるかもしれない。

だが、そもそも日本の公的年金は原則として賦課方式で運営されており、これから100年間の年金給付の財源のうち約9割は将来支払われる保険料と税金で賄われ、積立金およびその運用益によって賄われる部分は約1割である。もし年金積立金が1割失われて(※2)、それが早期に回復することはないと仮定したとしても、将来の年金給付額への影響は1割に1割を乗じた1%程度という計算になる。

将来の公的年金の給付水準の大部分は、長期的な経済成長率や賃金上昇率によって変わってくる。今回のショックは足元のGDPや賃金を押し下げることにはなろうが、長期的な経済成長率や賃金上昇率をどう変えるものとなるかはまだ分からない。インバウンド需要の伸び率が下がる可能性などマイナス面もあろうが、テレワークの普及などにより多様な働き方を実現し生産性を向上させる契機となるプラス面もありうる。

もし少子高齢化に伴い長期的に日本の実質GDPが縮小する道をたどった場合(※3)、将来の「モデル年金」の金額(※4)は減っていかざるを得ない。しかし、それは主に夫が40年働き、妻は40年間専業主婦という世帯を想定した「モデル年金」にすぎない。現在50代以上の方であれば、そのような世帯が多いかもしれないが、若い世代ほど共働き世帯は増え、現在の30代では結婚や出産を経ても働き続ける女性の方が過半数となっている。若い世代ほど共働き世帯の割合が増えていることを踏まえれば、筆者は厳しい経済前提の下でも夫婦世帯の平均年金支給額は、将来になるほど増加していくと予想している(※5)。

こうしたことを踏まえ、足元の株価が急落しても、なお、公的年金への「過度な悲観」をすべきではないと考えている。

(※1)2020年4月2日付日本経済新聞朝刊5面より。
(※2)GPIFは株式と債券におよそ半々の割合で投資している。2020年1月~3月期は、株式は約2割の損失が生じた一方、債券はプラスマイナスゼロか若干の利益を得たものと推定されるため、トータルでは約1割の損失となったものとみられる。
(※3)政府の2019(令和元)年財政検証における「ケースⅥ」を仮定した場合。
(※4)物価変動率を考慮した実質値。以下同じ。

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟