米中交渉の行方を左右する米国大統領選挙
2020年01月08日
2019年12月、米中間で貿易合意の第1段階が成立し、2020年1月中にも正式に署名される見込みとなった。この合意によって、2019年12月15日から米国が課す予定だった追加関税第4弾リストB(1,600億ドル規模の輸入品目)の発動が見送られたことに加え、9月1日に発動した追加関税第4弾リストA(1,200億ドル規模の輸入品目)の追加関税率が15%から7.5%へと引き下げられる。追加関税の延期はこれまでも度々行われてきたが、追加関税率の引き下げは2018年7月に米国が対中追加関税を発動して以降、初めてのことであり、今回の合意はこれまで悪化の一途を辿ってきた米中関係にとって大きな一歩になったと言える。
今回、米中間で合意に達した背景としては、米国としても追加関税第4弾リストBの発動を回避したかったという事情があると考えられる。追加関税第4弾リストBには、スマートフォンなど消費財が多く含まれており、仮に発動されれば、とりわけ米国家計への影響が大きくなることが懸念されていた。2020年に米国大統領選挙を控える中、再選を目指すトランプ大統領は、追加関税で家計の負担感が増し、支持率が低下することを避けたかったとみられる。
具体的な交渉スケジュールは明らかとなっていないが、米中は合意第2段階に向けて交渉を続けていく見込みであり、さらなる交渉の進展が期待されている。しかし、先行きについては楽観的にみるべきではないであろう。なぜなら、世論調査によれば、支持政党を問わず米国民の過半数は、中国に対してネガティブな印象を持っていることが明らかとなっており、中国に対して強硬な姿勢を貫くことが、支持率対策としてより効果的な可能性があるからだ。実際、米中合意第1段階に対して、対中強硬派の議員などからは批判の声が上がっており、少なくとも中国に対して弱腰であるという印象を米国民に与えるような政策をトランプ大統領が取るとは考えづらい。
さらに、2020年の大統領選挙によって、共和党のトランプ大統領から民主党へと政権が交代する可能性がある点も、今後の米中交渉を考える上での大きな不確定要因である。本稿執筆時点で、民主党候補者のうち最も支持率が高いジョー・バイデン前副大統領は、自由貿易を支持する立場を取っている。しかし、予備選挙において2番手、3番手につけるバーニー・サンダース氏、エリザベス・ウォーレン氏はいずれもリベラル色の強い政策を掲げ、トランプ大統領と同様、もしくはそれ以上に保護関税貿易による国内雇用の保護を志向している。すなわち、大統領選挙の結果次第では、米国がこれまで以上に中国に対する姿勢を強硬化させるリスクがある。
トランプ大統領が中国に追加関税を課して以降、米中交渉の進退が金融市場や、世界経済の先行きに対して大きな影響を与えてきた。米国大統領選挙が本格化する2020年は、米中交渉自体に加えて、大統領選挙が米中関係の先行きを大きく左右することになるため、その動向にも細心の注意を払っていく必要がある。
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦