LIBOR消滅で何が起こるのか
2019年09月03日
2021年末以降、LIBOR(London InterBank Offered Rate)が消滅する可能性が高まっている。LIBORは世界中で様々な取引で利用されており、その消滅は金融市場に大きな影響を与えることが懸念されている。
LIBORは、ロンドンの銀行間取引市場において、複数のパネル行が呈示するレートの平均金利として算出される金利指標である。ドル、ユーロ、ポンド、スイスフラン、円の5通貨について算出され、貸出、債券、デリバティブなどの取引で利用されている。2014年時点で合計約220兆ドルの取引で使用されていると推計されている(※1)。
LIBORについては、2012年夏以降発覚した欧米銀行による不正操作を受けて改革が進められ、その過程で、LIBOR算出の基になる銀行間取引が低調であることが露呈した。そのため、2017年7月に英国の金融当局が、2021年末以降はパネル行にレート呈示を強制しないことを表明し、LIBORの公表が停止される可能性が高まっている。
日本では、日本銀行を事務局とする「日本円金利指標に関する検討委員会」が、円LIBORの公表停止に対する対応を検討しており、7月に案を公表した。検討委員会は、円LIBORを参照する契約の期間が2021年末をまたがるか否かで対応を分けており、2021年末までに終了する契約は、契約終了まで円LIBORは存続するため直接的な影響はないと考えられる。
一方、契約期間が2021年末をまたぐ契約は、契約期間の途中で円LIBORの公表が停止されてしまうことになるため、あらかじめ円LIBORの後継となる金利を当事者間で合意しておく必要がある(このような対応を「フォールバック」と呼ぶ)。検討委員会は、後継金利として無担保コールO/N物レートに基づいて算出する金利やTIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)を利用する方法を提示している。
後継金利は円LIBORと等しい価値にする必要があるが、通常、無担保コールO/N物レートに基づいて算出する金利やTIBORは円LIBORと水準が異なるため、差異を調整する必要がある。しかし、等しい価値に設定できず、例えば、円LIBORの変動利付債の後継金利が円LIBORを下回れば、債券保有者は不利になるリスクがある。債券の場合、金利を変更するには債権者集会の開催という手続き上の負担もある。仮に後継金利に合意できなければ、利払いができず、デフォルトが発生することになる。
LIBOR消滅に関しては他にも、ヘッジ会計への影響も考えられる。例えば、ヘッジ対象の貸出とヘッジ手段の金利スワップが円LIBORを参照している場合に、フォールバックにより両者の間で異なる金利が参照されることとなれば、ヘッジ会計の適用が認められるのかという問題もある。認められなければ、繰り延べられていた金利スワップの損益を計上しなければならない。
さらに、2021年末に近づくにつれて金利スワップ市場の流動性が低下すれば、ボラティリティーが上昇するおそれもある。また、リスク管理において資産・負債の価値を算出する際、将来キャッシュフローの割引現在価値をLIBORを用いて算出している場合、LIBORが消滅すれば別の金利指標で算出する必要がある。
このようにLIBOR消滅に伴う影響には様々なものが考えられ、中には、金融機関内部の会計処理やリスク管理など、当事者しか把握できないものもある。金融機関をはじめとする市場関係者は、LIBOR消滅に備えてどのようなリスクがあるかを洗い出し、システム対応を含めた実務的な対応を早急に進める必要がある。
(※1)日本円金利指標に関する検討委員会「日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議のポイント」(2019年7月)
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