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加速する米中貿易紛争による世界の分断化への流れ

~経済的相互依存を“武器化”する外交への懸念~

2019年08月29日

金融調査部 主席研究員 内野 逸勢

これまでの枠組みでの国際協調が更に難しくなっている。つい先日閉幕したフランスが議長国のG7サミットでは同サミットの歴史上初めて共同宣言の採択が見送られた。G20大阪サミットで一旦収まったかに見えた米中貿易紛争による世界の分断化への流れが加速し、世界経済が長期に停滞する可能性が高まっているのではないか。

昨年の末のコラム“2020年代に世界経済の暗黒時代が再来?”(※1)の中で触れたいわゆる“キンドルバーガーの罠”(=1930年代の世界経済の暗黒の10年)の再来が着実に近づきつつあるとの懸念は杞憂であろうか。同コラムの中では、WTOの貿易問題の紛争処理のメカニズムを機能させるために、G20のネットワークによるグローバル課題の“監視機能”ではなく、リーマン・ショック時の対応のような“緊急危機対応機能”の必要性を説いた。

公表資料と政府高官の発言で見聞きする限り、G20大阪サミットは、各国首脳からの安倍首相への信頼をベースにオールジャパンで対応したことにより、成功したと評価されている。G20大阪サミットはグローバル課題の深刻化を回避する“監視機能”を果たしたと言えよう。しかし、今回のG20大阪サミットにおいては、G20の機能の問題以上に、G7に中国を含んだ国の間での“二つの対立”の構図とそこから派生した問題が存在した。

一つ目の対立の構図は、「一国主義vs多国間主義」、すなわち“米国vs G6+中国”である。財務省が主導する分野(財務トラック)では、2つの大きな問題の深刻化を回避できたと言われている。その一つが、デジタル課税(巨大プラットフォーマーへの課税)に関する問題であった。これは“租税回避に対抗する勢力間において協働の方向性”でコンセンサスを得たとしている。もう一つの問題は世界経済に重大な影響を与える貿易の緊張の高まりである。G20大阪サミットの場での米中のトップ会談の実現によって米中貿易紛争の深刻化(第4弾の米国による追加関税措置の発動)を抑えることで、一旦は緊張が緩和した。経産省が主導する分野(通商トラック)では、米国の保護主義との闘いに焦点を当てず、自由貿易の基本的な考え方を明示して、首脳レベルで全員から合意を得た。

二つ目の対立の構図は、「既存の国際秩序vs新秩序の希求」つまり“G7 vs中国”である。財務トラックでは2つの問題があった。その一つは、日中のインフラ援助政策における債務持続可能性を担保する部分での整合性の問題であった。これは、日本の進める“質の高いインフラ”と中国が主導する“一帯一路(BRI)”は整合的であるとし、対立を回避した。もう一つはアジアインフラ投資銀行(AIIB)による新たな国際秩序を追い求める中国の出資比率の上昇を伴うIMF/世銀の増資の問題の取り扱いであった。これはAIIBが既存の国際秩序の“外の国際機関”という認識の上で、中国の出資比率の上昇を伴うIMF/世銀の増資を認めることで中国との対立を回避した。さらに通商トラックのグローバルな貿易システムでは、特定のセクターの国有企業に補助金を拠出する仕組みを維持していながら貿易のグローバリゼーションの恩恵を受けている中国と、恩恵を受けていない国が増えているという問題があった。この“恩恵の不均衡”の拡大を過度に強調する米国と中国を既存の秩序に組み込もうとする米国以外のG6が対立している。

2つの対立の構図を整理すると、米中の対立の中で右往左往する米国以外のG6という構図が浮かび上がる。ただし、問題の本質は、過去も含めたG20でグローバル貿易システムの問題解決に向けて、緊急性を高めて対応してこなかったことにあろう。これが上記の2つの対立の構図の根底にあり、米中貿易摩擦の激化につながっている。このG20の対応不足が積み重なった結果、G20大阪サミット後に、根底にあった米中対立のマグマが噴出したように問題は蒸し返され、世界経済が長期に減速する要因となる可能性が高まっている。

さらに事態を悪化させているのは、米中が経済的な相互依存を交渉カードとして利用しながら“勝者のない”外交を続けていることである。米中の首脳は各々の国内情勢を踏まえつつ、その経済的相互依存を一種の“武器”として利用していると言えないか。極端に言えば、経済的相互依存を“人質”に、強制的に発動される追加関税措置、為替操作国認定などの経済的な“制裁ツール”の乱用である。これが、相互の報復の連鎖を生み、予期せぬ両国の関係悪化を招いている。これは米中以外の国家間の関係にも波及している。経済あるいは安全保障のネットワークから自国を隔離する方向への積極的な活動につながるという危険性を孕んでいる。例えば、英国のEU離脱問題に揺れるEUと英国の関係、日韓関係なども該当しよう。経済相互依存関係が強ければ強いほど関係が複雑であり、産業・技術政策あるいは安全保障政策の分野にまで波及する。一旦外交問題が拗れると、両国の経済的影響を冷静に考慮せず、制裁が先鋭化し、その応酬となり、解決の糸口が見つけられなくなる。

このように米中貿易紛争によって、これまで予期しなかった二国間の関係悪化が様々な地域で発生することで、既存の多国間の枠組みが分断化し、ブロック経済化する流れが加速し、長期にわたって世界経済が減速する可能性が高まっている。“1930年代の世界経済の暗黒の10年”も“通貨安戦争”から始まっており、2020年代に再来しないように祈るだけである。

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