リアルとバーチャルの交わる未来 – 無人タクシーと大谷翔平の共通点とは

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2025年07月24日

  • デジタルソリューション研究開発部 チーフグレード 森岡 嗣人

2025年において、生成AIは個人レベルでも受け入れられるようになった。例えばChatGPTやGeminiなどのAIアシスタントを相談相手にする、などがある。これは、AIが仮想の人物のように自然な応答や会話が行えるようになる等、技術革新による精度と速度の向上が背景にある。テキストチャットとしての会話にとどまらず、音声ベースでのリアルタイムの会話も可能になった点も大きな要因だろう。今後は画像・動画認識に加え、物理的なロボットとの統合が進み、人間の知覚の要素が徐々に追加されていくと期待される。

今後のAI関連サービスは、Webサイトやスマートフォンのデジタル空間に閉じたものから、現実の物理世界と仮想のデジタル空間をつなぐものに広がっていくだろう。この進化において、現実と仮想の相互フィードバックによる最適化が不可欠になると考えている。例えばAI側の目線で言えば、AIが思考・予測した命令を現実の物理環境に適用した結果、何が起きたかを観測し、そのフィードバックをもとに最適化を図るサイクルのことを指す。既にある実用事例をいくつか見ていこう。

1つ目の例は自動運転である。米国のWaymo社はカリフォルニア州市内で無人タクシーを提供しており、日本でも25年4月よりデータ収集(手動走行)が始まっている(※1)。現実世界における交通標識や人間・他の車の動き、車からの見え方といった環境データを収集し、仮想空間上で再現することでAIが反復学習できる環境を構築している。この仮想環境では、事故など現実世界では試すことのできない危険なシナリオも試行できるため、自動運転の安全性向上に必須なプロセスである。仮想環境上の学習を踏まえ、現実世界にて試行したり、不足したデータを収集したりしている。このように現実と仮想のフィードバックサイクルを繰り返すことで、AIを実用レベルまで引き上げることができる。なお最新の市販車の多くに、高速道路や駐車のシーンなどでは自動運転に近いアシストモードが実装されていることも本件に関連している。環境上のイレギュラーな要素が少ないほど、実用に至るまでが早い傾向がある。

2つ目はスポーツの分野である。各試合・選手の動画・データ化は進んでおり、その全データはWebサイト上でも公開されている(例:MLBのStatsCast、NFLのNextGenStatsなど)。野球を例にとると、このデータを反映したピッチングマシンは特定の試合や選手の投球を現実に再現することができ、大谷翔平選手もそのマシンの利用者の一人として知られている。また、Kaggleというデータ分析コンペティションサイトでは、プロアメリカンフットボールリーグ(NFL)のデータを用いて、選手間の接触を分析・予測する問題も出題されている。この結果は選手の安全性向上のためにヘルメット設計・ルール策定等に活用されている(※2)。

AIの進化は、デジタル空間に留まらず、自動運転やスポーツ分野での活用に見られるように、現実の物理世界へとその影響力を広げている。こうした「現実と仮想の相互フィードバック」による最適化のサイクルこそが、AIを社会実装し、私たちの生活を豊かにする鍵となるだろう。このサイクルを回していく上で私たちに求められることは、技術革新に対応できる柔軟性、人間が知覚・認知している事象のデータ化、現実世界の知覚・認知をAIが行えたとして、何ができるか、というユースケースの可能性探索、などがあげられるだろう。

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森岡 嗣人
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