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2020年代に世界経済の暗黒時代が再来?

2018年11月22日

金融調査部 主席研究員 内野 逸勢

米国の中間選挙が終わり、本格的に米中貿易紛争によるグローバル経済に与える影響が注目されている。この“影響”は2019年という短期的な目線で語られがちであるが、今後10年という長期的な視点でも重要であると位置づけられる。理由としては、“1930年代の世界経済の暗黒の10年”のトリガーとなった当時の英米関係と現在の米中関係の類似性を指摘する識者が増えているからである。当時の英米関係を“キンドルバーガーの罠”と呼ぶ。米国が英国に代わって適切なグローバル公共財を提供できなかったため“暗黒の10年”につながったとする説を唱えた米国の経済学者であるチャールズ・キンドルバーガー(Charles P. Kindleberger)の名前が由来である。同氏はマーシャル・プランの“知性的アーキテクト”とも呼ばれた。この学説を、現在の米中関係に当てはめれば、中国が米国に代わって国連、IMF・世界銀行、WTOのようなブレトンウッズ機関に相当する適切なグローバル公共財を提供できない場合には、2020年代に1930年代のような世界経済の暗黒時代が再来することとなる。“再来”を回避するために、特に懸念されている貿易については、自由貿易・多国間主義の枠組みの中で、1)中国が適切なグローバル公共財を提供する、2)米国が引き続き提供する、3)米中等の大国以外の中堅国が国際協調して提供する、との3つのシナリオがある。

どのシナリオの可能性が高いのであろうか。残念ながら、現時点では1)と2)のシナリオの可能性は相対的に低い。11月末に予定されているトランプ大統領と習近平国家主席との会談における貿易紛争の解決に向けた“成果”あるいは“方向性”がポイントとなるが、2国間で決めるとなれば、自由貿易・多国間主義の枠組みはさらに機能しなくなる。加えて1)のシナリオは、中国の知的所有権の問題等による現在の自由貿易体制へのフリーライドの可能性が指摘されているため、中国主導のグローバル公共財への各国からの信認は取りにくい。さらに2)のシナリオは、米国のトランプ大統領の任期が続く限り、可能性も低い。その理由として、新NAFTA(USMCA:米国・メキシコ・カナダ協定)の協定文には、輸出競争力を高めるための通貨安誘導に対して報復措置を認める「為替条項」、米国の自動車輸入に対する「数量規制」等、米国第一主義が色濃く出ていることが挙げられる。トランプ大統領の任期が終われば変化する可能性も出てくるが、米国の世論を見ていると、その見極めは難しい。となれば、3)のシナリオの可能性が相対的に高いこととなる。日本を含む中堅国主導によるTPP11、RCEP等の自由貿易・多国間主義に基づく地域のメガ自由貿易体制が構築されることへの期待は大きい。

ただし、3)のシナリオを補強するために、自由貿易・多国間主義の屋台骨が揺らいでいることに緊急に対応する必要がある。機能不全に陥っている既存の自由貿易体制の信認を得るには、24年前から変革がないWTOの速やかな改革を進めることが必要であろう。ドーハ・ラウンドが合意に至らなかった現状を考えると、WTOの自助努力に過大な期待を持つのは難しい。このためリーマン・ショック後のG20の金融危機対応のように、“貿易版FSB”のような“貿易安定理事会(TSB)”を設立して、WTO改革を危機対応の枠組みで解決してはどうだろうか。世界経済の暗黒の時代の先に想定される“冷戦”という言葉も聞こえる中、そのような事態を回避するためであれば、緊急時の対応を含めてWTOの改革に国際協調の方法を総動員する必要があるのではないか。

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内野 逸勢

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金融調査部
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